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市街地のヒグマを生け捕りにしないわけ

札幌市のヒグマ捕殺に抗議数百件という事態に考える「シカとクマへの認識の差」

松田裕之 横浜国立大学大学院環境情報研究院教授、Pew海洋保全フェロー

 「北海道のヒグマも個体数調整を考えるべきだ」と題する記事(以下「前稿」)を2019年8月2日に載せた直後、札幌市内の住宅地でヒグマが銃により捕殺された。これは全国紙でも報道された。札幌市には、主として道外から、捕殺に対する抗議が数百件寄せられたという。なぜ生け捕りにできないのか、札幌市も北海道もすでに説明しているが、ここで改めて説明する。

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2018年の北海道のヒグマ捕獲数は約850頭

 まず、生け捕りにするには、捕獲数が多すぎる。2018年の北海道のヒグマ捕獲数は約850頭である。2011年の国会答弁によると、2010年にツキノワグマも合わせ全国で3952頭のクマ類が駆除されている。これらをすべて生け捕りにすることは非現実的である。

 ただし、札幌市を含む積丹・恵庭個体群に限れば、捕獲数は年15頭前後で多くはない。この個体群は絶滅危惧個体群に指定されたままだから、生け捕りでもよいだろう。しかし、15頭前後の捕獲数は少なすぎる可能性がある。

拡大札幌市の住宅街に現れたクマ=2019年8月12日、札幌市南区、白井伸洋撮影
 前稿で紹介したように、クマ対策は「人間を恐れて避ける」という段階0から「人間に積極的につきまとう、または人間を攻撃する」という段階3まで区分して考えている。段階2(「農作物に被害を与えるなど、人間活動に実害をもたらす」)以上はすべて問題個体であり、段階1(「人間を恐れず避けない。人家付近や農地に頻繁に出没する」)は問題個体と非問題個体がまざっている。

 積丹・恵庭個体群の段階2の問題個体数は50頭以上とみられている。つまり、現状では農作物に被害を及ぼす個体の多くが野放しにされている。北海道立総合研究機構では野外で遭遇するクマは「基本的に人を避けて行動する」というが、それはほとんどが段階0の場合の話で現状に合わない。もしこの個体群が全体で200頭程度であれば、四分の一は段階2ということになる。前稿で紹介した私の教科書では、クマの個体群管理に、個体数だけでなく、問題個体数も考慮した方策の選択を提案している。地域個体群の生息頭数は少ないがその多くが問題個体という事態は、共存を図るうえで最も困難である。

生け捕りにしても、生かし方が難しい

拡大札幌市に設置した箱罠(高さ217cm×奥行335cm×幅121cm)=北海道庁プレスリリースから
 次に、市街地に出没したクマを生け捕りにすることは、技術的に難しい。札幌市は、クマが住宅地の隣の農地で農作物を食べていることから、当初箱罠を設置した。罠ならば生け捕りも技術的には可能である。しかし罠にかからず、銃による捕殺を決断し、翌々日の早朝に捕殺に成功した。猟銃でなく麻酔銃を使っても麻酔が効くのに時間がかかり、それまで市街地で暴れる恐れがあり、極めて危険である(環境省マニュアルの4頁)。

 さらに、生け捕りにしても、生かし方が難しい。動物園等で引き取ってもらうことも考えられるが、上述の通り捕獲数は膨大であり、動物園等の飼育施設の能力をはるかに超える。

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筆者

松田裕之

松田裕之(まつだ・ひろゆき) 横浜国立大学大学院環境情報研究院教授、Pew海洋保全フェロー

京都大学理学部および同大学院博士課程卒業(理学博士)、日本医科大学助手、水産庁中央水産研究所主任研究官、九州大学理学部助教授、東京大学海洋研究所助教授を経て 2003年より現職。GCOE「アジア視点の国際生態リスクマネジメント」リーダー(2007-2012)、日本生態学会元会長、日本海洋政策学会理事、個体群生態学会副会長。ヨコハマ海洋みらい都市研究会共同代表。

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