札幌市のヒグマ捕殺に抗議数百件という事態に考える「シカとクマへの認識の差」
2019年08月29日
「北海道のヒグマも個体数調整を考えるべきだ」と題する記事(以下「前稿」)を2019年8月2日に載せた直後、札幌市内の住宅地でヒグマが銃により捕殺された。これは全国紙でも報道された。札幌市には、主として道外から、捕殺に対する抗議が数百件寄せられたという。なぜ生け捕りにできないのか、札幌市も北海道もすでに説明しているが、ここで改めて説明する。
まず、生け捕りにするには、捕獲数が多すぎる。2018年の北海道のヒグマ捕獲数は約850頭である。2011年の国会答弁によると、2010年にツキノワグマも合わせ全国で3952頭のクマ類が駆除されている。これらをすべて生け捕りにすることは非現実的である。
ただし、札幌市を含む積丹・恵庭個体群に限れば、捕獲数は年15頭前後で多くはない。この個体群は絶滅危惧個体群に指定されたままだから、生け捕りでもよいだろう。しかし、15頭前後の捕獲数は少なすぎる可能性がある。
積丹・恵庭個体群の段階2の問題個体数は50頭以上とみられている。つまり、現状では農作物に被害を及ぼす個体の多くが野放しにされている。北海道立総合研究機構では野外で遭遇するクマは「基本的に人を避けて行動する」というが、それはほとんどが段階0の場合の話で現状に合わない。もしこの個体群が全体で200頭程度であれば、四分の一は段階2ということになる。前稿で紹介した私の教科書では、クマの個体群管理に、個体数だけでなく、問題個体数も考慮した方策の選択を提案している。地域個体群の生息頭数は少ないがその多くが問題個体という事態は、共存を図るうえで最も困難である。
さらに、生け捕りにしても、生かし方が難しい。動物園等で引き取ってもらうことも考えられるが、上述の通り捕獲数は膨大であり、動物園等の飼育施設の能力をはるかに超える。
最後に、
有料会員の方はログインページに進み、朝日新聞デジタルのIDとパスワードでログインしてください
一部の記事は有料会員以外の方もログインせずに全文を閲覧できます。
ご利用方法はアーカイブトップでご確認ください
朝日新聞デジタルの言論サイトRe:Ron(リロン)もご覧ください