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反「遺伝子組換え」団体が作りだす意図的誤解の罪

除草剤ラウンドアップはなぜ抹殺されようとしているのか? 【前編】

唐木英明 東京大学名誉教授、公益財団法人「食の安全・安心財団」理事長

 世界中での長い使用実績の中で、ラウンドアップの安全性について何の問題も提起されなかった。しかしある時期からその運命は大きく変わり、一部の人から危険といわれるようになった。そのきっかけは1996年に始まった遺伝子組換え(GM)作物の商業栽培だった。

2. GM作物「ラウンドアップレディー」

 最初に栽培されたGM作物は米国モンサント社が開発した「ラウンドアップレディー」(ラウンドアップ耐性)と呼ばれる大豆やトウモロコシだった。このGM作物が育つ畑にラウンドアップを散布するとすべての雑草は枯れてしまい、GM作物だけが生き残る。そんな夢のような新技術だ。

拡大ラウンドアップをめぐる動きは世界の食料供給にどう影響するか
 農業労働の大きな部分を占める除草が簡単になるというメリットのため、ラウンドアップレディーは世界中に広がり、GM作物の大きな部分を占めるようになった。日本でも食品安全委員会の審査によりラウンドアップレディーの安全性が確認され、トウモロコシ、大豆、菜種、綿などが多量に輸入されている。当然のことながらラウンドアップもラウンドアップレディーと一体になって売り上げを伸ばした。

 ところがGM技術には当初から反対運動があった。「遺伝子は神の領域であり、人間がこれに手を付けることは許されない」という神学論的な反対、「自然ではない遺伝子が入っているものなんか食べたくない」という感情的な反対、「遺伝子に変更を加えたらどんな恐ろしいことが起こるかわからない」という不可知論の反対などである。そのような反GM運動が世界的に広がったきっかけは、企業の不注意により起こったスターリンク事件だった。

3. スターリンク事件

 1998年にフランスのアベンティス社により除草剤耐性と害虫抵抗性の二つの性質を併せ持つGMトウモロコシ「スターリンク」が開発された。すべてのGM作物は発売前に安全性と環境への影響について国の審査を受けるのだが、とくにアレルギーについては厳しく審査される。スターリンクはアレルギーに関するデータが不足していたため食用には許可にならず、飼料用として栽培が始まった。

 ところが2000年に米国で、食用のトウモロコシにスターリンクが混入していることを反GM団体が見つけた。輸送や貯蔵の過程で混入してしまったのだ。米国では何か問題があればすぐに訴訟になる。このニュースを聞いた消費者から、スターリンクを食べたため体調を崩したという訴えが続出し、中にはアレルギーを起こしたと訴える人もいた。スターリンクとアレルギーの関連は医学的に否定されたが、2002年にアベンティス社はアレルギーを起こしたと訴えた3人に900万ドル(約10億円)を支払うことで和解した。


筆者

唐木英明

唐木英明(からき・ひであき) 東京大学名誉教授、公益財団法人「食の安全・安心財団」理事長

1964年東京大学農学部獣医学科卒。農学博士、獣医師。東京大学農学部助手、同助教授、テキサス大学ダラス医学研究所研究員などを経て、東京大学農学部教授、東京大学アイソトープ総合センターセンター長などを務めた。2008〜11年日本学術会議副会長。11〜13年倉敷芸術科学大学学長。著書「不安の構造―リスクを管理する方法」「牛肉安全宣言―BSE問題は終わった」など。

※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです

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