「象牙国内市場の完全閉鎖」が見送られたワシントン条約締約国会議の背景
2019年09月03日
今回、閉鎖していない日本とEUを名指しして「国内市場の完全閉鎖」を求める決議案がケニアなどから出されたが、日本やアフリカ南部の国が反対し、結局、米国が出した「国内市場のある締約国に、象牙管理の徹底や違法取引をなくす取り組みの状況を来年の常設委員会までに報告するよう求める」案が、27日の全体会合で採択された。完全閉鎖の勧告はこの条約の範囲と任務を超えていると解釈できるだろう。
象牙の国際商取引は、1989年に同条約で禁止された。アジアゾウは1975年に商業取引を禁じる「付属書Ⅰ」(絶滅のおそれのある種であり、学術研究目的以外の国際取引を全面的に禁止する)に入っており、この年にアフリカゾウも「付属書Ⅰ」に記載されたのである。しかし、1997年にジンバブエ、ボツワナ、ナミビアの南部3カ国は、アフリカゾウを商業取引が可能な「付属書Ⅱ」に記載することが認められた。それ以後、有害駆除と自然死した個体の象牙に限り、南部から1999年には日本へ、2009年には日本と中国への一回限りの輸出(One-off sale)が認められた。現在の日本の市場には、禁輸以前とこれらの年に輸入した象牙の在庫がある。
日本国内で全形を保った象牙を売買するには登録が必要だ。禁輸以前の象牙には未登録が多いが、今年7月から登録要件が厳しくなったため、その前の駆け込み登録が増えたという。合法的に取得、登録した象牙でも、輸出はできない。しかし、日本の取引業者や顧客が違法性を認識していないとの指摘がある。違法な取引は減らしていかねばならない。
3年前に私は、中国市場が閉鎖した後、密猟密輸がどうなるかを見れば、日本への批判が妥当かどうかわかるだろうと述べた。①中国等で依然として密売が続いて市場閉鎖の効果がないか、②中国だけの市場閉鎖で密猟と個体数減少に歯止めがかかるのであれば、日本への批判は当たらない。③中国の代わりに日本へ密輸されれば、日本への批判は免れない。今のところ、③が起きている兆しはない。
2011年から2017年にかけて、つまり中国の市場閉鎖以前から、密猟は減る傾向にある。いずれにしても、今回の会議に出された統計は中国が市場閉鎖する2017年末以前のものであり、もう少し事態を見守る必要があるだろう。
象牙は現代人に必須ではないと思うかもしれない。確かに印鑑などには合成樹脂の代替品もある。これに類した議論は日本生態学会で「ゴルフ論争」として知られている。ゴルフがなくても人間は生きていける。しかし、
有料会員の方はログインページに進み、朝日新聞デジタルのIDとパスワードでログインしてください
一部の記事は有料会員以外の方もログインせずに全文を閲覧できます。
ご利用方法はアーカイブトップでご確認ください
朝日新聞デジタルの言論サイトRe:Ron(リロン)もご覧ください