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野生のゾウ、使って守るか、使わず守るか

「象牙国内市場の完全閉鎖」が見送られたワシントン条約締約国会議の背景

松田裕之 横浜国立大学大学院環境情報研究院教授、Pew海洋保全フェロー

象牙の国内市場の完全閉鎖は決議されず

拡大ワシントン条約締約国会議。最近はネットを介して資料が提供され、ペーパーレス化が進んでいる=2019年8月27日、スイス・ジュネーブ
 絶滅の恐れのある野生動植物の種の国際取引に関する条約(ワシントン条約=CITES)締約国会議が、8月28日までスイス・ジュネーブで開催された。3年前の前回も論じたが、今回も引き続き、「象牙の国内市場閉鎖」が議題の一つになった。前回は「密猟または違法取引を助長している国の国内市場閉鎖を勧告する決議」が採択された。これに従う法的義務はないが、中国は2017年末に市場を閉鎖した。

 今回、閉鎖していない日本とEUを名指しして「国内市場の完全閉鎖」を求める決議案がケニアなどから出されたが、日本やアフリカ南部の国が反対し、結局、米国が出した「国内市場のある締約国に、象牙管理の徹底や違法取引をなくす取り組みの状況を来年の常設委員会までに報告するよう求める」案が、27日の全体会合で採択された。完全閉鎖の勧告はこの条約の範囲と任務を超えていると解釈できるだろう。

アフリカ東部では密猟で激減、南部は持続可能な利用を目指す

拡大草原をあるくアフリカゾウ=2017年、ケニア・アンボセリ、三浦英之撮影
 アフリカゾウは、アフリカ東部では密猟のため個体数が激減しているのに対し、南部では個体数が増加傾向にある。すなわち、東部は密猟により絶滅の恐れがあり、南部では持続可能な資源利用ができる。完全閉鎖案は南部も含む世界中での象牙の持続可能な利用を阻む措置である。

 象牙の国際商取引は、1989年に同条約で禁止された。アジアゾウは1975年に商業取引を禁じる「付属書Ⅰ」(絶滅のおそれのある種であり、学術研究目的以外の国際取引を全面的に禁止する)に入っており、この年にアフリカゾウも「付属書Ⅰ」に記載されたのである。しかし、1997年にジンバブエ、ボツワナ、ナミビアの南部3カ国は、アフリカゾウを商業取引が可能な「付属書Ⅱ」に記載することが認められた。それ以後、有害駆除と自然死した個体の象牙に限り、南部から1999年には日本へ、2009年には日本と中国への一回限りの輸出(One-off sale)が認められた。現在の日本の市場には、禁輸以前とこれらの年に輸入した象牙の在庫がある。

 日本国内で全形を保った象牙を売買するには登録が必要だ。禁輸以前の象牙には未登録が多いが、今年7月から登録要件が厳しくなったため、その前の駆け込み登録が増えたという。合法的に取得、登録した象牙でも、輸出はできない。しかし、日本の取引業者や顧客が違法性を認識していないとの指摘がある。違法な取引は減らしていかねばならない。

 3年前に私は、中国市場が閉鎖した後、密猟密輸がどうなるかを見れば、日本への批判が妥当かどうかわかるだろうと述べた。①中国等で依然として密売が続いて市場閉鎖の効果がないか、②中国だけの市場閉鎖で密猟と個体数減少に歯止めがかかるのであれば、日本への批判は当たらない。③中国の代わりに日本へ密輸されれば、日本への批判は免れない。今のところ、③が起きている兆しはない。

 2011年から2017年にかけて、つまり中国の市場閉鎖以前から、密猟は減る傾向にある。いずれにしても、今回の会議に出された統計は中国が市場閉鎖する2017年末以前のものであり、もう少し事態を見守る必要があるだろう。

主要な論点は保全と保存の立場の違い

 象牙は現代人に必須ではないと思うかもしれない。確かに印鑑などには合成樹脂の代替品もある。これに類した議論は日本生態学会で「ゴルフ論争」として知られている。ゴルフがなくても人間は生きていける。しかし、 ・・・ログインして読む
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筆者

松田裕之

松田裕之(まつだ・ひろゆき) 横浜国立大学大学院環境情報研究院教授、Pew海洋保全フェロー

京都大学理学部および同大学院博士課程卒業(理学博士)、日本医科大学助手、水産庁中央水産研究所主任研究官、九州大学理学部助教授、東京大学海洋研究所助教授を経て 2003年より現職。GCOE「アジア視点の国際生態リスクマネジメント」リーダー(2007-2012)、日本生態学会元会長、日本海洋政策学会理事、個体群生態学会副会長。ヨコハマ海洋みらい都市研究会共同代表。

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