除草剤ラウンドアップはなぜ抹殺されようとしているのか? 【後編】
2019年09月05日
世界の食品安全の専門家は「ラウンドアップに発がん性がある」とは考えていないことは、本稿の前編のなかで述べた。だが、「おそらく発がん性あり」としたIARCの発表の社会的影響は極めて大きかった。
IARCが本拠を置くフランスは2019年に果樹園等で用いるラウンドアッププロ360を禁止し、マクロン大統領は2021年までにラウンドアップ及びその類似品の農業分野での使用をやめると宣言した。EU各国ではラウンドアップの規制を強化する動きが出ている。さらに2019年に国際産婦人科連合(FIGO)は予防の措置として科学的に因果関係が完全に確立されていなくてもラウンドアップの使用を廃止すべきだと発表した。
これらの動きを見ると、ラウンドアップを安全とみる科学者とおそらく発がん性があるとみる科学者が半々のように見えるが、実際はそうではない。ほとんどの科学者がラウンドアップに発がん性はないと考えている。それではなぜ発がん性を主張する人たちがいるのだろうか。
IARCも国際産婦人科連合も医学の立場に立って「少しでもリスクがあるものは止めるべきだ」という予防の措置を提言したのだ。そのような理想論は多くの人が願うが、実現は難しい。もし少しでもリスクがあるものを禁止するのであれば、それ以前に、明らかな発がん性があるたばこ、酒、ヒ素を含む海藻や米をすべて禁止しなくてはならないだろう。世界のリスク管理機関は現実論に基づいて、実際に健康被害が出ないところまでリスクを下げる取り組みをしているのだ。しかし理想論は美しく見えるため常に人気があるのに比べて、現実論は企業寄りで薄汚れて見えるため、同意する人は少ない。
2018年に米カリフォルニア州でラウンドアップを使用したため非ホジキンリンパ腫になったとして、ハードマン氏がモンサント社を訴えた。陪審員はラウンドアップがハードマン氏のがんの原因であることを認め、モンサント社がラウンドアップの危険性を使用者に十分伝えていなかったと認定して、懲罰的損害賠償を含む3億ドル(330億円)近い賠償を命じ、後に裁判所はこれを7800万ドル(約86億円)に減額した。
裁判の内容は米国各紙が伝えているが、ウォールストリートジャーナル2019年3月31日版の論説によれば、裁判官は時間の浪費や陪審員の誤解を避けるためとして、米国環境保護庁(EPA)の決定や各国のリスク管理機関がラウンドアップに発がん性がないという結論を出していることについてモンサント社側が陪審員に説明することを禁止した。裁判官はハードマン氏の弁護士にも同じ指示をしたが、弁護士はこれを繰り返し無視してIARCの評価の解説をするなど、陪審員の誤解を招く説明を繰り返した。裁判官はこれに対してたった500ドルの罰金を弁護士に科しただけであった。
陪審員がラウンドアップの危険性の噂を知っていたことは容易に想像できる。そのような陪審員がラウンドアップの安全性についての説明を受けることを禁止し、その一方で弁護士からラウンドアップには発がん性があるという説明をされれば、評決がどうなるのかは最初から分かっていた。
2019年にもカリフォルニア州で2件の類似の裁判が行われ、ここでも元モンサント社(現バイエル社)は敗訴した。裁判所は1件は懲罰的損害賠償を含む8000万ドル(約88億円)、もう1件は約20億ドル(約2200億円)の賠償を命じたが、その後、2530万ドル(約28億円)と8670万ドル(約96億円)に減額した。バイエル社が上告したので判決は確定していない。
バイエル社によれば、ラウンドアップをめぐる訴訟がこのあと18400件控えている。大規模な訴訟になった理由は訴訟希望者を募集する弁護士が多数いるためである。すでに3件の高額勝訴を勝ち取っているので、希望者は後をたたない。科学ではなく感情で判決が左右される陪審員裁判が作り出した大きな訴訟ビジネスである。最近、朝食用シリアルなどの穀物製品からラウンドアップが検出され、フロリダ州の住民からそんな危険なものが入っていることを知らされていなかったという集団訴訟も起こされた。バイエル社は総額80億ドル(約8800億円)の支払いですべての裁判の原告との和解を考えているという情報もあるが、確認されていない。このような裁判結果を見て、ほとんどの人が「ラウンドアップの発がん性が裁判で認められた」と誤解している。
では、もしラウンドアップが世界的に使用禁止になったら、どのような影響が出るのだろうか。バイテク情報普及会のまとめによれば、
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