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除草剤の使用禁止がもたらす世界の食糧危機

除草剤ラウンドアップはなぜ抹殺されようとしているのか? 【後編】

唐木英明 東京大学名誉教授、公益財団法人「食の安全・安心財団」理事長

 世界の食品安全の専門家は「ラウンドアップに発がん性がある」とは考えていないことは、本稿の前編のなかで述べた。だが、「おそらく発がん性あり」としたIARCの発表の社会的影響は極めて大きかった。

拡大世界中で広く販売されてきたラウンドアップ
 反GM団体は国際機関がラウンドアップの発がん性を認めたと宣伝し、多くの人がこれを信じてしまったのだ。その結果、2017年にカリフォルニア州はグリホサートを発がん性物質として登録し、商品に「発がん性」という表示を義務付けた。ところが米国環境保護庁(EPA)は2019年にカリフォルニア州の措置を批判して、グリホサートの発がん性に関する表示を禁止する通知を出した

 IARCが本拠を置くフランスは2019年に果樹園等で用いるラウンドアッププロ360を禁止し、マクロン大統領は2021年までにラウンドアップ及びその類似品の農業分野での使用をやめると宣言した。EU各国ではラウンドアップの規制を強化する動きが出ている。さらに2019年に国際産婦人科連合(FIGO)は予防の措置として科学的に因果関係が完全に確立されていなくてもラウンドアップの使用を廃止すべきだと発表した

7. 理想論とポピュリズム

 これらの動きを見ると、ラウンドアップを安全とみる科学者とおそらく発がん性があるとみる科学者が半々のように見えるが、実際はそうではない。ほとんどの科学者がラウンドアップに発がん性はないと考えている。それではなぜ発がん性を主張する人たちがいるのだろうか。

 IARCも国際産婦人科連合も医学の立場に立って「少しでもリスクがあるものは止めるべきだ」という予防の措置を提言したのだ。そのような理想論は多くの人が願うが、実現は難しい。もし少しでもリスクがあるものを禁止するのであれば、それ以前に、明らかな発がん性があるたばこ、酒、ヒ素を含む海藻や米をすべて禁止しなくてはならないだろう。世界のリスク管理機関は現実論に基づいて、実際に健康被害が出ないところまでリスクを下げる取り組みをしているのだ。しかし理想論は美しく見えるため常に人気があるのに比べて、現実論は企業寄りで薄汚れて見えるため、同意する人は少ない。

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筆者

唐木英明

唐木英明(からき・ひであき) 東京大学名誉教授、公益財団法人「食の安全・安心財団」理事長

1964年東京大学農学部獣医学科卒。農学博士、獣医師。東京大学農学部助手、同助教授、テキサス大学ダラス医学研究所研究員などを経て、東京大学農学部教授、東京大学アイソトープ総合センターセンター長などを務めた。2008〜11年日本学術会議副会長。11〜13年倉敷芸術科学大学学長。著書「不安の構造―リスクを管理する方法」「牛肉安全宣言―BSE問題は終わった」など。

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