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除草剤の使用禁止がもたらす世界の食糧危機

除草剤ラウンドアップはなぜ抹殺されようとしているのか? 【後編】

唐木英明 東京大学名誉教授、公益財団法人「食の安全・安心財団」理事長

拡大「ラウンドアップによって腫瘍ができた鹿」などとして世界中に拡散した写真。もちろん事実ではない
 そこで出てくるのがポピュリズムの政治だ。カリフォルニアやEU各国での規制の強化はIARCの発表と反GM団体の声に押されたものであり、GM作物の栽培がほとんど行われていないので規制をしても大きな問題は起こらず、むしろ政治家の評判が高まると判断したからである。政治家が判断を下すときの根拠は、科学ではなく次の選挙だ。だからラウンドアップがないと農業が成り立たない米国穀物地帯では、政治家は反GM団体の要求にこたえていない。フランスも反ラウンドアップ一色ではなく、マクロン大統領の規制方針に農業者が反発してシャンゼリゼ通りでデモを行っている。

8. カリフォルニア州の裁判

 2018年に米カリフォルニア州でラウンドアップを使用したため非ホジキンリンパ腫になったとして、ハードマン氏がモンサント社を訴えた。陪審員はラウンドアップがハードマン氏のがんの原因であることを認め、モンサント社がラウンドアップの危険性を使用者に十分伝えていなかったと認定して、懲罰的損害賠償を含む3億ドル(330億円)近い賠償を命じ、後に裁判所はこれを7800万ドル(約86億円)に減額した。

 裁判の内容は米国各紙が伝えているが、ウォールストリートジャーナル2019年3月31日版の論説によれば、裁判官は時間の浪費や陪審員の誤解を避けるためとして、米国環境保護庁(EPA)の決定や各国のリスク管理機関がラウンドアップに発がん性がないという結論を出していることについてモンサント社側が陪審員に説明することを禁止した。裁判官はハードマン氏の弁護士にも同じ指示をしたが、弁護士はこれを繰り返し無視してIARCの評価の解説をするなど、陪審員の誤解を招く説明を繰り返した。裁判官はこれに対してたった500ドルの罰金を弁護士に科しただけであった。

 陪審員がラウンドアップの危険性の噂を知っていたことは容易に想像できる。そのような陪審員がラウンドアップの安全性についての説明を受けることを禁止し、その一方で弁護士からラウンドアップには発がん性があるという説明をされれば、評決がどうなるのかは最初から分かっていた。

 2019年にもカリフォルニア州で2件の類似の裁判が行われ、ここでも元モンサント社(現バイエル社)は敗訴した。裁判所は1件は懲罰的損害賠償を含む8000万ドル(約88億円)、もう1件は約20億ドル(約2200億円)の賠償を命じたが、その後、2530万ドル(約28億円)と8670万ドル(約96億円)に減額した。バイエル社が上告したので判決は確定していない。

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筆者

唐木英明

唐木英明(からき・ひであき) 東京大学名誉教授、公益財団法人「食の安全・安心財団」理事長

1964年東京大学農学部獣医学科卒。農学博士、獣医師。東京大学農学部助手、同助教授、テキサス大学ダラス医学研究所研究員などを経て、東京大学農学部教授、東京大学アイソトープ総合センターセンター長などを務めた。2008〜11年日本学術会議副会長。11〜13年倉敷芸術科学大学学長。著書「不安の構造―リスクを管理する方法」「牛肉安全宣言―BSE問題は終わった」など。

※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです

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