依存性の説明不十分とジョンソン・エンド・ジョンソンに約600億円
2019年09月09日
米国からの報道によると、オクラホマ州は米製薬会社パーデュー・ファーマとイスラエルのテヴァ・ファーマシューティカルにも同様の訴訟を起こし、それぞれ2億7000万ドル、8500万ドルで和解している。J&Jは和解を拒否し、不正行為はしていないと反論してきた。判決直後に発表した声明では「この判決は、他州ですでに否定されている不法妨害法を不当に適用したものだ」と主張している。
オピオイドとは化学物質の名前で、優れた鎮痛作用を持つが、一時的に幸福感が得られ、依存性がある。代表的なオピオイド鎮痛薬がケシを原料に作られるモルヒネだ。日本では病院の中で慎重に使われるケースがほとんどで、オピオイド依存症は問題になっていない(日本で依存症が問題になっている薬物の一番手は、ご存じの通り、覚醒剤である。覚醒剤はオピオイドとは別の種類の薬物だ)。
しかし、日本に比べて痛み止めの薬を日常的に使う米国やカナダではオピオイドの過剰摂取のために死ぬ人が増え、「オピオイド危機」とまで呼ばれるようになっている。米疾病対策センター(CDC)によると、2017年にオピオイドの過剰摂取により亡くなった人は47600人。いわゆる「ヤク中」の状態になって、普通の生活ができなくなっている人はもっと多い。2017年10月にはトランプ大統領がこうした状況を「国家的不名誉」とし、「公衆衛生の緊急事態」と宣言している。
米国ではオピオイド関連訴訟は約2000件起こされているという。その多さだけでなく、自治体が原告となっていることも多くの日本人には驚きだろうが、これには前例がある。たばこ訴訟である。
1998年に米国の大手たばこメーカー4社は、各州が起こした民事訴訟を終わらせるため、総額で2060億ドル(約25兆円)という巨額の和解金を46州に支払うことで基本合意した。メーカーは、青少年の喫煙を促さないように、屋外掲示板や公共交通機関などでの広告をやめることにも合意した。この「たばこ会社の敗訴に近い和解」によって、米国のたばこ対策は大いに進んだ。
『現代たばこ戦争』(伊佐山芳郎著、岩波新書)によると、米国で個人によるたばこ訴訟が起こされたのは1950年代からだ。「長年吸ったために病気になった」とたばこ会社を訴えたのだが、「吸った本人の責任」とされて敗訴するケースがほとんどだった。1988年に初めてたばこ会社の責任を認める評決が出たが、控訴審で逆転敗訴する。その次に出た原告勝利評決も、控訴審で逆転した。しかし、1990年代に入って変化が訪れる。たばこ業界は1960年代から有害性を認識していたのに、それを隠して数えきれないほどの違法行為をしてきたことが内部秘密文書の暴露によって白日のもとにさらされたからだ。
こうして、州政府が「たばこ病患者のためにかかった医療費を返せ」という医療費求償訴訟を起こし、ついにメーカーがその訴訟をひっこめてもらう代わりに巨額和解金を払うことに合意したのである。
私自身、90年代後半は論説委員としてたばこに関する社説を担当し、たばこメーカーはニコチンに依存性があることを知りながら長年隠していたことに衝撃を受けた覚えがある。
依存症とは、それなしにはいられないという病気である。本人の意思でやめることはできない。だから、ニコチンに依存性があると知らされずにたばこを吸い始めてニコチン依存症になった場合、責任の第一は知らせなかった会社にある、というのが巨額和解金の背景にある考え方だ。
これをオピオイドに当てはめれば、
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