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「それは持ちますか?」 訪日客急増と持続可能性

交通渋滞、騒音、ごみ、自然破壊……オーバーツーリズムの弊害が顕在化してきた

桜井国俊 沖縄大学名誉教授、沖縄環境ネットワーク世話人

 水俣病の原因解明に尽力し、「万年助手」として21年間勤務した東京大学で「自主講座」を開講し、全国の公害反対運動・環境保全活動に携わる多くの市民に学びの場を提供した宇井純さんが亡くなられてから13年が経とうとしている。宇井さんは東大退官後沖縄大学に赴任し16年間勤務したが、2003年3月に退職し東京に戻っている。

 その宇井さんが、沖縄を去るに当たって沖縄県民に警告として残したのが沖縄タイムスに連載された「格闘16年・島が溶けてなくなるぞ」である。その8回目(2003年5月28日沖縄タイムス朝刊)のタイトルは「それは持ちますか」で、宇井さんは県民に次のように問いかけている。

 このところ、この島で生起し、あるいは遭遇するいろんな動きに対して、私が判断する第一の尺度は「それは持ちますか」つまり持続できるか否かでこちらの考えを決めることにしている。この小さくてデリケートな島が果たして生き残れるか、米軍基地を引き受けることで中央から降ってくるいろいろな開発事業をこの問いで判断したら果たしてどれだけが意味のあるものとして残るだろうか。

 宇井さんのこの問いが今まさに該当するのが沖縄での観光の在り方ではなかろうか。

オーバーツーリズムの弊害

 沖縄県の2018年度の入域観光客数は999万9千人と前年度より4.4%増え、6年連続で過去最高になった。海外航空路線の拡充や、クルーズ船の寄港回数の増加などを背景に、外国客が急増し初の300万人を突破した。4月26日の定例記者会見で玉城知事は「目標の1千万人に届かなかったものの、沖縄観光は好調に推移している。2021年度の入域観光客数1200万人の目標達成に向け、引き続き成長著しいアジアのダイナミズムを取り込み、官民一体となった効果的なプロモーションを展開する」と述べている。

那覇市安里交差点の交通渋滞(筆者撮影)
 しかし、単純な量の拡大はすでに大きな軋みを沖縄社会の各所で生みつつある。沖縄に暮らしている一市民としての筆者の目からみても、レンタカーの急増による交通渋滞は年ごとに悪化し、朝晩の通勤を自家用車に頼らざるを得ない勤労者にとっては耐え難いものとなっている。沖縄には鉄軌道という基幹交通インフラがないからだ。「レジで並ばない」「モノレールの車中で携帯で大声で話す」などの外国人観光客の行為に眉をひそめる県民も多いが、その背景には文化や習慣の違いがある。

 また観光客は住民の3倍の水を消費するが、急増する観光客に安定して水供給を行うことができるか否かが問われている。気候変動の影響で渇水年の水供給は従来以上に厳しくなるはずだが、世界自然遺産に登録しようというやんばるの森にこれ以上ダムを造ることは許されまい。

訪日客トラブル、11市町村が懸念表明

 訪日客トラブルについて共同通信が行なった全国アンケート調査で、全体の5%に当たる93市町村が具体的な問題を抱えていることが8月25日に明らかになっている。沖縄県下では、県と11市町村が訪日客トラブルが起きていると回答している。また、「現時点ではトラブルは起きていないが今後懸念される」と答えた市町村が11市町村あり、県下41市町村の半数以上が訪日客増加に何らかの問題を抱えていることが浮き彫りになった。沖縄は全国の中でも突出して訪日客によるトラブルが生じていることがわかる。

 生じているトラブルは、「公共交通の混雑、交通渋滞」「騒音、ごみ、トイレ」「私有地への立ち入り」などである。また影響を懸念する具体的な内容は、「多言語対応の遅れによるトラブル」「災害時の情報提供、避難誘導」「宿泊施設の不足」などである。

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