超巨大肉食恐竜?とも思われたデイノケイルスの全貌が、世界で初めて東京で公開された
2019年09月11日
獣脚類の代表格といえば肉食恐竜ティラノサウルスだろう。全長は最大約13メートルもあるが、腕の長さはせいぜい1メートルほど。もし同じような体形なら、腕の比率を考えると全長はティラノサウルスの2倍以上の超巨大肉食恐竜かもしれない。そんな臆測までが浮かぶ中で、デイノケイルスは「謎の恐竜」と呼ばれ続けた。
チームは2009年、モンゴル南部のブギンツァフで化石の盗掘現場に遭遇した。残念ながらモンゴルでは恐竜化石の盗掘が横行している。頭や手や足など高値で売れそうな部位だけを掘り取って、残りは破壊するなどしてうち捨てていくという行為が目立つそうだ。この現場にも多くの骨が散らばっていた。
それでも研究者の目からすれば、残されたすべての部位が重要な恐竜骨格の一部だ。これらを集めていく最終段階で、イ教授の目にとまったのが左腕につながる肩のあたりの骨だった。それこそ以前から目に焼き付けていた1965年発見のデイノケイルスの肩甲烏口骨と同じ形で、さらに大きいくらいだった。「これはデイノケイルスだ。ついに見つけたぞ!」とみんなで歓喜の声を上げたという。
ところで、モンゴルではしばしば成功や安全の祈願のため、石を積み上げた「オボ」をつくるそうだ。盗掘団も成功を念じてだろうか、そこにオボをつくり、2002年と印刷時期が記されたモンゴル紙幣が供えられていた。従って、この場所での盗掘は02~08年の間という比較的最近に行われたものと考えられた。
もっとも、ここで見つけた腹肋骨には、当時アジアにいた肉食恐竜タルボサウルスの咬み痕があった。生前か死後かは分からないが、デイノケイルスがタルボサウルスによって食べられていたらしいことが分かったのは、新しい成果だった。「恐竜博2019」の会場では、デイノケイルスと通路をはさんで向き合った位置に、タルボサウルスの全身骨格が展示されている。
さて2009年に発掘された化石は2010年にいったん韓国へ持ち出されて、骨の周りの石を取り除くクリーニング作業が進められた。かつて臆測が流れたような超巨大恐竜ではなかったが、それでもティラノサウルス並みの大きな恐竜だということはわかってきた。そんな研究の中でイ教授は、変な突起を持った大腿骨骨頭の特徴的な形に目をとめた。そして以前にチームがこれと同じ特徴の骨を発見していたことに気づいた。
それは2006年にアルタンウルという場所から小林教授たちが掘り出したものだった。尾や骨盤など下半身はほぼすべてそろっていながら、腕や頭などがなくて何の恐竜か分からないでいた。それが大腿骨の特徴から2009年の標本と結びつけられ、チームが見つけたもう一つのデイノケイルス骨格となった。こちらは2009年発見の骨格より小さく、4分の3くらいの大きさなので、亜成体のものと考えられている。
こうして1965年発見の両腕に、2006年と2009年発見の骨格が加わり、デイノケイルスの全身像はかなりわかってきた。しかし、一番知りたい顔の情報を含む頭骨は、いずれの発掘現場からも見つからなかった。それが2011年に思わぬ形で進展した。
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