瀬川茂子(せがわ・しげこ) 朝日新聞記者(科学医療部)
1991年朝日新聞社入社。大阪本社科学医療部次長、アエラ編集部副編集長、編集委員などを務める。共著書に「脳はどこまでわかったか」(朝日選書)、「iPS細胞とはなにか」(講談社ブルーバックス)、「巨大地震の科学と防災」(朝日選書)など。
※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです
将来世代の視点から新施策を打ち出せるか
「京都市1.5℃を目指す将来世代職員フューチャーデザインチーム」の1回目の会議が9月9日に京都市役所で開かれた。1.5℃とは、気温上昇をこれ以下に抑えたいという目標値である。さまざまな部署から公募で集まってきた若手職員が、「フューチャーデザイン(FD)」という手法で、地球温暖化対策条例の見直しや対策計画の策定のためのアイデアを検討していく。そのための最初の会議だった。
フューチャーデザインとは何か? 会議の冒頭で、大阪大の原圭史郎准教授が解説した。
生物多様性、環境問題、気候変動、債務問題など長期的な課題を解決するにはどうしたらいいのか。目の前の利益を追求すれば、将来世代につけが回る。しかし、人間の特性として、近視眼的に最適化した行動をとり、楽観的に考えがちだ。目の前にケーキがあれば明日のことを考えずに食べてしまうし、いやなことは忘れて快楽を求め将来を楽観視してしまう。
社会の仕組みとしても、「市場」は将来世代を考えて資源配分するものではなく、「民主主義」の意思決定に将来世代の意見は取り込まれない。
これでは長期的な課題の解決はできない。現在の利得を小さくしても持続可能な社会を引き継ぐにはどうしたらいいのか。高知工科大の西條辰義教授や原さんらによってFD研究が始まった。
米国の先住民が7世代後の人の幸福を考えて意思決定したことにヒントを得て考え出されたのが、意識的に「仮想将来世代」を作って施策作りにいかす手法だ。
仮想将来世代の想定は、すでにさまざまな試みに使われている。たとえば、岩手県矢巾町で、住民主体で2060年の将来ビジョンを作るワークショップを開いたときにも採用された。さまざまな施策の提案がなされる中で、仮想将来世代になりきった人から「こどもの医療費無料化」は将来の財政負担になるから受け入れられないといった意見が出てきた。現在の自分からは出てこない考え方が自然に生まれてきたのだ。将来世代と現世代で議論するうちに、将来世代の提案を受け入れる現世代もあらわれた。人にはもともと将来世代のためを思う気持ちがあるのだろう。
こうした一連の活動の全体がFDと呼ばれ、次第に地域のビジョン作りや研修などにも取り入れられるようになった。京都府営水道研修では、10の市町の行政職員が参加して、2048年の水道ビジョンの施策を考えた。参加者は水道事業のプロ。最初は、現在の仕事の延長で水道管路の維持がいかに重要かという視点から検討が始まったが、