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発売5カ月で死亡11人の新薬イベニティ

画期的な骨粗鬆症治療薬に、深刻な心血管疾患が多発している

川口浩 東京脳神経センター整形外科・脊椎外科部長

 厚生労働省は9月6日、骨粗鬆症の新しい治療薬「イベニティ」に対し、添付文書を改訂するよう指示した。医薬品の品質や有効性・安全性について審査をする医薬品医療機器総合機構(PMDA)が情報を公表した。「本邦での販売開始以降、虚血性心疾患や脳血管障害の事象が複数報告され、死亡に至る症例も報告された」としている。

 大変に重い出来事だ。発売からわずか半年足らずで、イベニティの使用との関連性を否定できない死亡例が多発しているのだ。政府の対応は遅きに失した感を拭えないし、製薬会社の危機感の乏しさは驚くばかりだ。経緯を追いながら、問題の背景を考察したい。

世界に先駆けて承認され、医療現場へ

 イベニティは米国アムジェン社が開発した薬で、一般名をロモソツマブという。骨の細胞内で「Wntシグナル」という経路を活性化させ、骨形成を促進する画期的な治療薬として、世界的に注目されている。

骨粗鬆症治療薬「イベニティ」(アステラス・アムジェン・バイオファーマの広報資料から)
 だが、販売までには紆余曲折があった。開発した米国のアムジェン社は米食品医薬品局(FDA)に承認申請する際、3種類の国際共同試験の結果を提出した。「FRAME試験」「ARCH試験」「BRIGDE試験」と呼ばれる、複数の国が参加する国際試験だ。このうちARCH試験において重症血管系の有害事象が増加し、FDAはこれを懸念して2017年5月、承認を見送った。欧州医薬品庁(EMA)も昨年6月、申請を承認しない決定をしている。

 ところが、こうした状況下で日本のアステラス・アムジェン・バイオファーマ社はPMDAに承認申請し、驚いたことに昨年12月、これが認められたのだ。多くの医療関係者の予想に反する結果であり、イベニティは今年3月、世界に先駆けて国内の医療現場で使われることになった。

日本は参加していなかった臨床試験

 だが実は日本は、開発元の米国アムジェン社が実施した三つの試験のうち、問題とされたARCH試験に参加していない。4093名の骨粗鬆症閉経後患者を対象に、イベニティと従来薬(ビスフォスフォネート)の効能と有害事象を比較したこの国際試験に、もし日本も参加して、日本人においてのみ例外的に血管系の有害事象が増えないことが確認できていたというのであれば、国内での承認には妥当性があるだろう。しかし、そうではないのだ。

骨を治療するつもりが、心臓や血管の病気になろうとは……
 この承認に関しては、PMDAは審査報告書のなかで「ベネフィットとリスクのバランス」という言葉を繰り返し使っている。利益があるからという理由で危険性を覆い隠そうとするかのような表現は、見切り発車への苦しい言い訳とも読める。承認の判断には、強い疑問を抱かざるを得ない。

 そして残念なことに、不安は現実となってしまった。世界に先駆けての国内販売後、日本のアステラス・アムジェン・バイオファーマ社が発表している「市販直後報告」では、驚くべき内容が示されているのだ。

発売後に急増してきた死亡例

 イベニティが3月に発売されて後、8月までの5カ月間で、市販直後報告は3回出されている。内容をまとめると、次の通りだ。

新たに出されたイベニティの「使用上の注意改訂のお知らせ」

■発売後3カ月(3/4〜6/3)
 重篤な血管系有害事象 11例
 死亡 3例

■発売後4カ月(3/4〜7/3)
 重篤な血管系有害事象 19例
 死亡 7例

■発売後5カ月(3/4〜8/3)
 重篤な血管系有害事象 43例
 死亡 11例

 驚くべき死亡例の増加ぶりだ。まず注目すべきは、7月に発表された最初の3カ月の報告書だろう。この3月4日~6月3日の段階ですでに、重篤な血管系有害事象が11例も発症し、そのうち3例が死亡している。いずれもイベニティとの関連が否定できない死亡であり、うち1例は注射の翌日に心停止しているのだ。なぜこの段階で、広範な注意の呼びかけが出来なかったのか。

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