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温室効果ガスの総量管理とは何か

温暖化の脅威を何としても食い止めるために

西村六善 日本国際問題研究所客員研究員

 去る7月、ネイチャー誌に世界的に著名な科学者6人が「1.5度目標を50%の確率で実現する残存炭素予算は580ギガトンCO₂だ」と発表した。残存炭素予算とは、一定の温度目標を実現するために、地球全体で今後排出できるCO₂の総量のことだ。

 これは現在の世界の総排出量(約42ギガトン)で計算すると、あと15年でなくなる数値だ。しかし、科学者の説明では、2018年を起点として、今後30~40年にわたる総排出量が、この580ギガトンCO₂を超えなければ、同じように1.5度目標は実現するという。この点は筆者が論文を書いた科学者に直接確認した。

パリ協定は危機を食い止められるのか?

 パリ協定の下では、政府が自国のCO₂排出量を減らす仕組みで悪戦苦闘してきた。しかし事態は改善していないし、温暖化を確実に制圧する展望はない。

拡大ネイチャー誌に発表された著名科学者6人による論文
 世界のCO₂の総排出量はここ数年横ばいだったが去年は前年比2.7%も増加し、過去最高になった。国連気候変動に関する政府間パネル(IPCC)は昨年、「あと12年しか残っていない」と警告を発した。今月、国連は特別総会を開いて、温暖化の危機と戦う総力戦を始めた。

 確かに近年、再エネなどのクリーンエネルギーの伸長は著しく、それに伴い科学的知見も巨大な進歩を遂げた。エネルギー転換に向けた政策オプションは膨大な広がりを見せ、世界中で脱炭素とエネルギー転換に向けて怒濤の動きが始まった。

 しかしマクロ的に見ると、地球のCO₂の排出に歯止めはかかっていない。確実にそれが下降し始め、一定期間内についにこの戦いに勝利できるという見通しは全くない。

 なぜこの危機を食いとめる展望が立たないのか? 私見では、現行のパリ協定は残存炭素予算などの科学的な数値を、座標軸としていなかったためだ。

拡大気候危機を訴えてデモ行進する人たち=2019年9月20日、東京都渋谷区、恵原弘太郎撮影
 そもそも、当時はそういう科学的な知見も十分ではなかった。パリ協定の座標軸は科学ではなく、先進国と途上国の政治的対立だった。そのため、長い困難な交渉の結果、2度目標などを目指すが、先進国は自国の排出削減の野心を誓約するという仕組みになってしまった。

 先進国は化石燃料の大量使用で成長と繁栄を手にしたが、途上国は成長から取り残されただけでなく、CO₂の大量排出に由来する温暖化の被害に苦しんでいるという構図。更に先進国にはCO₂排出の削減は成長阻害要因だという観念が強かった。これが南北間の対立を生み、交渉は非常に難航した。

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筆者

西村六善

西村六善(にしむら・むつよし) 日本国際問題研究所客員研究員

1940年札幌市生まれ。元外務省欧亜局長。99年の経済協力開発機構(OECD)大使時代より気候変動問題に関与、2005年気候変動担当大使、07年内閣官房参与(地球温暖化問題担当)などを歴任。一貫して国連気候変動交渉と地球環境問題に関係してきた。現在は日本国際問題研究所客員研究員。

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