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「むかわ竜」から始まる新たな恐竜世界

カムイサウルスが語るハドロサウルス科の進化と海辺の重要性

米山正寛 ナチュラリスト

 北海道むかわ町穂別から発掘され、東京・上野で開催中の「恐竜博2019」(朝日新聞社など主催、会期は10月14日まで)に展示されている約7200万年前(白亜紀後期)の鳥脚類恐竜「むかわ竜」が先月、新属新種のカムイサウルス・ジャポニクスとして記載報告された。日本産で学名が付いた新種の恐竜はこれで八つ目だ(サハリンで見つかったニッポノサウルスは除く)。そうした恐竜の中でも、むかわ竜は全長8メートルという大きさと、全身の8割の骨が見つかったという高い完全度から、国内外の恐竜世界に新しい変化をもたらす存在となりそうだ。

カムイサウルスの骨格図。白い部分の化石が発見された=増川玄哉氏提供

骨格に確認できた三つの固有の特徴

 カムイサウルスの記載論文は、北海道大学総合博物館の小林快次教授に、むかわ町穂別博物館の西村智宏学芸員や櫻井和彦館長らも筆者として加わり、科学誌サイエンティフィック・リポーツに掲載された。ハドロサウルス科に属する植物食恐竜であることは従来からはっきりしていたが、論文にはこれまでの恐竜の骨格に見られなかった固有の特徴として、次の3点が記された。

① 方形骨にある方形頰骨が入るくぼみの位置が低い。
② 上角骨の上に伸びる突起が短い。
③ 第6~12胴椎骨の神経弓が前方に傾いている。

カムイサウルスの胴椎(模型)。上にある神経弓が前傾しているのは固有の特徴だ=国立科学博物館、筆者撮影
 頭の後ろに位置する方形骨にあるくぼみは、ハドロサウルスの仲間ではだいたい真ん中あたりにあるそうだ。これがカムイサウルスでは、かなり低い位置にあった。また下顎の後ろにある上角骨から上に伸びる突起が、他の仲間に比べると短かった。①と②について小林さんは「小さいことだが、こういう違いをしっかり見ると、新しい発見につながる」と話した。③は、背骨の上に伸びている神経弓という突起が通常、体に対して後ろへ傾いているのに、カムイサウルスでは前に傾いていたということ。「最初は変形したかと思ったくらいで、間違いなく他に見られない特徴だ」と強調しうるポイントとなった。

 ほかに歯で2点、頭骨で9点、体骨格で2点の特徴を併せ持つことも、ハドロサウルス科におけるカムイサウルスの新規性を主張する要素になった。分かりやすい点だけを説明すると、一つには頭が全体的に高い、すなわちずんぐりむっくりとした感じがすること、二つめに上腕骨つまり前脚が短めで細い、すなわち華奢であること。こうした骨格の特徴もカムイサウルスに独自性を発揮させているわけだ。

二足歩行の可能性 とさかもあったか

 論文では、さらに次のようなことも論じられた。

ハドロサウルス科は2亜科に分かれ、カムイサウルスはハドロサウルス亜科のエドモントサウルス族に含まれる
 まず、他に70種ものハドロサウルス類の骨の形質とともに、カムイサウルスの位置付けを系統解析の手法で検討した。ハドロサウルス科にはハドロサウルス亜科とランベオサウルス亜科があり、ハドロサウルス亜科はさらに四つのグループ(ブラキロフォサウルス族、クリトサウルス族、サウロロフス族、エドモントサウルス族)に分かれ、カムイサウルスはエドモントサウルス族に含まれた。この族は、また二つに分かれ、カナダのエドモントサウルス、中国のシャントンゴサウルスからなるグループ、そしてカムイサウルスと中国のライヤンゴサウルス、ロシアのケルベロサウルスからなるグループに分かれる。エドモントサウルス族はアジアと北米に広く分布し、アラスカ付近を通って両大陸間を行き来していたと考えられる。その中でカムイサウルスとライヤンゴサウルス、ケルベロサウルスは極東地域に隔離された一部から、独自の進化を遂げたらしい。

 また前脚が華奢なことから、カムイサウルスは必ずしも4本の脚で歩いていたとは言えず、2本の後ろ脚だけで歩いていた可能性も考えられる。それによって推定体重も違い、四足歩行では約5.3トン、二足歩行では約4.1トンと計算できたという。

 木の年輪のように見える骨の中の成長停止線をもとに、年齢も推定された。脚の脛骨を切ってその断面を観察すると、9本の線が見えた。消えてしまった線も数本あると考えられるため、最低でも9歳から13歳くらいまでで、いずれにしろおとなの個体だと判断された。

カムイサウルスの脛骨の断面(a)。(b)は(a)の四角部の拡大。9本の成長停止線が見える=北海道大提供
頭部にとさかを付けたカムイサウルスの復元画=服部雅人氏提供

 さらに可能性が出てきたのが、とさかの存在だ。

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