伊藤智義(いとう・ともよし) 千葉大学大学院工学研究院教授
1962年生。東京大学教養学部基礎科学科第一卒、同大学院博士課程中退。大学院生時代に天文学専用スーパーコンピューター「GRAPE」の開発にかかわり、完成の原動力となる。現在は「究極の3次元テレビ」をめざし研究中。著書に、集英社ヤングジャンプ「栄光なき天才たち」(原作)、秋田書店少年チャンピオン「永遠の一手」(原作)、集英社新書「スーパーコンピューターを20万円で創る」など
災害のたびに「想定外」を持ち出されることへの違和感
9月9日の台風15号による千葉県の停電被害について、もう一度取り上げたい。9月13日に公開された前稿では、東京電力が復旧の見込みを11日としておきながら13日に先送りしたことを問題視し、「情報があまり整理されていないため、掲載されたときには陳腐な記事になっているかもしれない。それならそれに越したことはないと願っている」と書き添えた。
しかし残念なことに、電力の復旧はさらに延び、2週間を要することになった。台風に停電は付きもので、100万戸規模の大停電も珍しくない。ただし、過去の事例を調べてみると、いずれも3日程度で復旧してきている。今回の停電は異例の長期化となった。東京電力の説明によれば、想定外に倒木が多く、作業が進まないとのことだった。
想定外-東日本大震災のときにさんざん使われた言葉である。震災から8年が経ち、いまだに「想定外」が免罪符のように使われていることに疑問を抱く。私たちは、「想定外」を「想定内」に引き戻す手立てをもっと尽くすべき段階にあると感じる。とくに台風や豪雨のような自然災害においては、時間的な猶予がある。想定を広げることができるはずである。
一つの方策として、スパコンによるリアルタイムの被害予測を試みることを提案したい。もちろん、自然災害はスパコンのターゲットの一つであることは承知している。これまでの「京」では、精度の良いリアルタイムシミュレーションは困難だったこともいくつかの文献で目にしている。
それでもなお、超高速計算が可能なスパコンの強みを生かすことができ、しかも直接的に社会に貢献するという試みは重要である。国の予算が投入されたスパコン群は、非常時においては、すべての計算を中断し、災害シミュレーションに対応するようなスパコンネットワークができないものかと思う。コンピューターと人間社会の一つの関わり方として期待したい。
私は大学で「技術者倫理」の講義を取りまとめている。専門家を招いて学生と議論を行う。その教科書として「事例で学ぶ技術者倫理 - 技術者倫理事例集(第2集)」(電気学会 2014年)を使用している。その中から、東日本大震災における(東京電力ではなく)東北電力の初動を紹介したい。
東日本大震災発生から、わずか44分後の2011年3月11日15時30分に、新潟支店から配電復旧応援隊の第一陣が宮城県に向けて出発した。応援隊は上位機関の指示を待たずに出勤を準備し、被災地に向かう途中で指示を受けつつ、現地到着後すぐに応援隊としての責務を果たした。第一陣の総数は社員および工事会社合わせて561人、一旦、名取市の運動場に集合し、そこから仙台営業所などに分散して作業を遂行した。3月11日と12日の2日間に、新潟支店管内の配電部門社員、約700人が被災地に派遣されたが、その数は支店管内の同部門の社員の約6割に相当する。
震災後3日間で8割ほどの停電が解消された。さらには、東京電力で実施された計画停電は、東北電力でも準備はされたが、実施は見送られた。会社設立以来、地震、水害、雪害など、幾多の自然災害を克服してきている東北電力の底力という分析がなされている。
こうした事例から、災害時の初動において、東北電力と東京電力では明らかな差があるように見える。そして、今回の千葉県の停電において、東京電力は、東日本大震災のときと同様に「想定外」を繰り返した。
ここで「想定外」について考えてみたい。災害時における「想定外」は
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