物理的宇宙論の理論モデルの確立に大きな貢献をしたピーブルズ
2019年10月16日
本稿の前編の冒頭で、ピーブルズという名前を聞いて驚いたと述べた。誤解なきようお断りしておくと、彼がノーベル賞に値する立派な宇宙論研究者であることに異論があるはずもない。ただし、今回、宇宙論と系外惑星というかなり異なる2つの分野が授賞対象となった点に違和感が残るのも確かだ。無責任な個人的想像をするならば、系外惑星分野に3人目がいない以上、異なる分野の一人を加えて3人としてはどうだろう、という話だったのかもしれない(むろん何も根拠はない)。
宇宙分野のノーベル賞を理論研究者が受賞する場合、観測的発見あるいは検証をした観測研究者とともに受賞するケースが多い。宇宙論分野では、1990年代以降に可能となった衛星による宇宙マイクロ波背景輻射(CMB)の天球地図データが、理論モデルを精密化する上で大きな貢献をした。
ピーブルズは、標準宇宙論の理論的枠組みの確立に大きな貢献を果たした巨人の一人に間違いない。1965年のCMB発見の前後から一貫して、ビッグバン宇宙での重要な基礎物理過程を理論的に考察・定式化してきた。特にCMBの温度非等方性を理論的に予言し、その観測可能性をいち早く論じた先駆的な研究が今回の受賞理由書では強調されている。
今回の受賞理由にある「物理的宇宙論」(physical cosmology)とはこの方法論をさしている。今やこのスタイルは当たり前となっているが、それを定着させた一人がピーブルズであり、1972年に出版された彼の教科書''Physical Cosmology”のタイトルそのものである。
さらに、宇宙の構造進化に関する彼自身の一連の研究成果を中心にまとめられた''The Large-scale Structure of the Universe’’が1980年に出版され、宇宙の構造形成研究者のバイブルと言えるほど標準的な教科書となった。私もまた、大学院生時代に読んだこの本をきっかけとして、観測的宇宙論の研究を志した一人である。
ただし、1960年代から1980年代末ごろまで、ヤーコフ・ゼルドビッチ(故人)率いるロシアのグループもまた、数多くの独創的な研究を行い、物理的宇宙論の理論モデルの確立に大きな貢献をしたことは強調しておくべきだろう。特に、今回の主な受賞対象の一つとされているCMBの非等方性に関するピーブルズの研究(Peebles and Yu, Astrophys.J., 162, 815, 1970)に関しては、ゼルドビッチとその弟子であったラシード・スニャーエフが同時期に同じく優れた結果を発表している(Sunyaev and Zel’dovich, Astrophys.Space Sci., 7, 3, 1970; これは彼らが1969年に発表したロシア語原論文の英訳版である)。
ノーベル財団がまとめた受賞理由書にも、
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