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続・驚いてホッとした2019年ノーベル物理学賞

物理的宇宙論の理論モデルの確立に大きな貢献をしたピーブルズ

須藤靖 東京大学教授(宇宙物理学)

 今回の受賞理由にある「物理的宇宙論」(physical cosmology)とはこの方法論をさしている。今やこのスタイルは当たり前となっているが、それを定着させた一人がピーブルズであり、1972年に出版された彼の教科書''Physical Cosmology”のタイトルそのものである。

 さらに、宇宙の構造進化に関する彼自身の一連の研究成果を中心にまとめられた''The Large-scale Structure of the Universe’’が1980年に出版され、宇宙の構造形成研究者のバイブルと言えるほど標準的な教科書となった。私もまた、大学院生時代に読んだこの本をきっかけとして、観測的宇宙論の研究を志した一人である。

拡大Planck探査機によるCMB温度ゆらぎの観測値(誤差棒付きの点)と、ダークマターと宇宙定数を仮定する標準宇宙モデルの予言(薄緑色の領域)は、驚くほど良く一致する
 ピーブルズは、宇宙の大構造を説明するためには、通常の物質だけでは不十分で、重力は及ぼすものの光では見えない物質、すなわちダークマターが不可欠であることを早くから認識していた。さらに、保守的な傾向の強い天文学者には当初ほとんど受け入れられていなかった宇宙定数(あるいはダークエネルギー)も積極的に支持し、それを検証する方法を提唱した。今や、ダークマターと宇宙定数が現在の宇宙の主成分であることは確立しており、天文学と素粒子物理学をつなぐ重要なミッシングリンクだと理解されている。

ロシアのグループも大きな貢献をした

 ただし、1960年代から1980年代末ごろまで、ヤーコフ・ゼルドビッチ(故人)率いるロシアのグループもまた、数多くの独創的な研究を行い、物理的宇宙論の理論モデルの確立に大きな貢献をしたことは強調しておくべきだろう。特に、今回の主な受賞対象の一つとされているCMBの非等方性に関するピーブルズの研究(Peebles and Yu, Astrophys.J., 162, 815, 1970)に関しては、ゼルドビッチとその弟子であったラシード・スニャーエフが同時期に同じく優れた結果を発表している(Sunyaev and Zel’dovich, Astrophys.Space Sci., 7, 3, 1970; これは彼らが1969年に発表したロシア語原論文の英訳版である)。

 ノーベル財団がまとめた受賞理由書にも、

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筆者

須藤靖

須藤靖(すとう・やすし) 東京大学教授(宇宙物理学)

東京大学大学院理学系研究科物理学専攻教授。1958年高知県安芸市生まれ。第22期・第23期日本学術会議会員。主な研究分野は観測的宇宙論と太陽系外惑星。著書に『ものの大きさ』、『解析力学・量子論』、『人生一般二相対論』(いずれも東京大学出版会)、『一般相対論入門』(日本評論社)、『三日月とクロワッサン』、『主役はダーク』『宇宙人の見る地球』(いずれも毎日新聞社)などがある。

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