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映画「天気の子」から人新世を考える

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谷淳也 Future Earthシニア・アドバイザー、ライター

 観客動員数が1千万人を超えた新海誠監督のアニメ映画「天気の子」。作品中に「アントロポセン(人新世)」という言葉が出てくると聞いて、見に行った。

映画「天気の子」の新海誠監督=2019年7月、東京都千代田区、江口和貴撮影映画「天気の子」の新海誠監督=2019年7月、東京都千代田区、江口和貴撮影
 それは、映画の終盤で主人公の少年が読む雑誌の中に一瞬、現れるだけだが、本作が地球温暖化、気候変動を強く意識した物語であることを示している。

 この映画を、気候変動と結びつけて見た人たちはどのくらいいたのだろう。鑑賞した知人に「気候変動の映画だったね」と言うと、多くは「え、そうなの?」という反応だ。一方、地球環境に取り組む活動家や研究者たちには、「え、まだ見てないけど」という人が多かった。「気候変動」は、日本ではまだ、みんなをつなげる話ではないようだ。

 アントロポセン(Anthropocene=人新世)とは、ノーベル賞化学者ポール・クルッツェンが、2000年に提唱した新たな地質学的時代区分で、「人類の時代」を意味する。

 20世紀半ば以降の急激な人口増、産業や開発の拡大、核物質製造などの人間の活動は、地球環境を変える決定的要因となった。その時代を指す。約20万年の人類史上初めてであるのはもちろん、1生物種が地球環境を支配するという意味では、46億年の地球史上でも初めてのことかもしれない。

文明のゆりかごの終わり

 1万2千年前から現在まで続く時代は、「完新世(Holocene)」と呼ばれる。私たち現生人類は、この時代に最も安定した環境に恵まれ、初めて農耕と文明を発展させることができた。だが、私たち人類は、自らの文明のゆりかごである完新世を終わらせ、人新世という特異な時代を始めてしまったのだ。

 この人新世で、人類が引き起こしている最大の危機が、地球温暖化、気候変動である。人間の生活や産業活動から排出される二酸化炭素などの温室効果ガスが、地球の温度を上昇させている。昨今の猛暑や猛烈な台風、豪雨、干ばつなどの異常気象の多くは、温暖化が原因であることが、科学的にも明らかになってきた。

 産業革命後に、地球の平均気温は約1度上昇し、このままだと今世紀末までには4度以上上昇する、と予測されている。異常気象や海面上昇、陸や海の生態系の破壊が急速に進み、災害、食料供給、安全、健康、経済活動などの面で、人類社会は深刻なダメージを受ける。人類文明存亡の危機と言っても、あながち大げさではない。

台風19号では千曲川の堤防が決壊した=2019年10月13日、長野市、遠藤真梨撮影台風19号では千曲川の堤防が決壊した=2019年10月13日、長野市、遠藤真梨撮影

 ちなみに、「天気の子」に描かれた急激な気温低下、雪、ひょうなどは、温暖化による異常気象として実際に起こる可能性がある。

 今年9月の台風15号や10月の台風19号による被災は、すでに予想されていた温暖化による台風の強大化と、それに対する備えの無策という二重の意味で、人災といえる。

「情景」に圧倒される

 巨大な積乱雲の連なりの上に草原があり、雨や水と見まがう不思議な魚たちが泳ぐ空の「生態系」が、リアリティーとして現れる。しかし、

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