米山正寛(よねやま・まさひろ) 朝日新聞記者(科学医療部)
朝日新聞科学医療部記者。「科学朝日」や「サイアス」の編集部員、公益財団法人森林文化協会事務局長補佐兼「グリーン・パワー」編集長などを務め、2018年4月から再び朝日新聞の科学記者に。ナチュラリストを夢見ながら、とくに自然史科学と農林水産技術に関心を寄せて取材活動を続けている。
生き物たちの性を伝えるための新たなチャレンジ
薄暗い通路にピンクの照明、ムーディーな音楽に、のぞき穴、おさわりBOX……。
ここはススキノ?歌舞伎町?北新地?中洲?いったい、どこなのだろう。そんな歓楽街のイメージを漂わせながらの「性いっぱい展」が、東京・池袋のサンシャイン水族館で開かれている(11月4日まで、18時30分~22時)。ふだんはなかなか見ることのできない海の生き物たちの性の多様性を伝えようと、ちょっと突き抜けたチャレンジングな企画展だ。
大胆な企画のきっかけは「飼育スタッフとの日頃の会話だった」とイベント企画を担当する岸野栞奈(かんな)さんは説明する。不思議な交尾の仕方とか、面白い求愛行動とか、ヒトだったらセクハラにもなりかねないような会話を日常的に耳にする中で、「生き物の性の神秘をぜひ多くの人に知ってほしい」と考えて、アイデアをふくらませたそうだ。
生き物の暮らしで大切なことは、食べることと子孫を残すこと。これまでも展示を通して伝えてきた部分ではあるが、水族館にありがちな堅苦しい解説からあえて逸脱してしまえば、多くの人に潜んでいる性への関心を刺激できるかもしれない。何を展示するか、どう説明するかだけでなく、解説板の文字やイラストのテイストまで、大きく変えて準備を進めた。
展示の中から、魚などの興味深い繁殖生態を少し紹介してみよう(ネタバレと言われないように、種名をふせるなど、あえて省いた説明もある)。
「メスはオスのアソコに吸い付いて、精子をグビグビと飲み干した後……」。アダルトビデオ顔負けの刺激的な解説のタイトルは「愛のゴックン大作戦」。こんな行為に及ぶことで、この魚は受精の確率が上がるというのだから驚きだ。まさに子孫繁栄のための営みだが、飲み込まれた精子は、いったいどうなっていくのだろうか?
また交尾の際、オスがメスの胸びれにかみつくという激しい行為をする魚もいる。これは虐待なのか、それとも愛情表現なのか。右側にかみつくか左側にかみつくかで、体位も変わる。オスの生殖器官がなんと2本あるのは、そんな時に悩まないためなのかもしれない。
「脱ぐからちょっと待っててね」と、挑発的なメスの言葉を掲げた一画も見つけた。何かと思えば、交尾の前に必ず脱皮する生き物がいるのだという。
論座ではこんな記事も人気です。もう読みましたか?