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フランスのアストリッド建設中止が示す路線修正

変わる世界のプルトニウム政策[7]

竹内敬二 元朝日新聞編集委員 エネルギー戦略研究所シニアフェロー

 最も安定した原子力大国フランスの原子力路線が修正されつつある。

 一つは、高速増殖炉(FBR)実証炉「アストリッド(ASTRID)」の建設計画の中止だ。アストリッドの建設は、フランスが核燃サイクル実現へ向けて前進を続けていることの象徴だった。「核燃サイクルの実現」はいっそう現実味を失うことになる。

2035年に原子力を50%、再生エネを45%に

フェッセンハイム原発の前で事故の危険を訴える反原発団体の人たち=2010年6月、セリーヌ・ヤシャールさん撮影
 二つ目は、今75%まで増やした原発での発電比率を2035年に50%に下げ、再生可能エネルギーを45%に上げることだ。原発と再エネの二本柱をめざす。まず古いフェッセンハイム原発2基を来年6月までに止め、その穴埋めとして太陽光発電を増やすことを決めた。

 フランス電力(EDF)は9月30日、稼働中の原発で最も古いフェッセンハイム原発(90万キロワット×2基)を来年2月と6月に閉鎖すると発表した。

 フランスは現在、第3世代の新鋭原発EPR(160万キロワット)をフラマンビル原発の3号機として建設中。この完成と引き換えにフェッセンハイムの2基を止める計画だったが、フラマンビルのEPRが、トラブル続きで完成が大きく遅れているため(早くても完成は22年末)、閉鎖が先になった。

閉鎖が発表されたフェッセンハイム原発。フランス最古の原発だという=2009年4月、エルザ・カディエさん撮影

 フランスは「2035年までに原発の発電割合を現在の75%から50%に下げ、現在20%の再エネの発電割合を45%に上げる」という公約をもつ。フェッセンハイム原発の停止も目標に向かう一環で、今後も古い原発を停止する。なお二酸化炭素を多く出す石炭火力発電所については、「2022年までに全廃」の方針を公表している。

 フェッセンハイム原発の停止で減る電力は、当面、新規の太陽光発電所の建設で補う。建設プロジェクトの入札が始まっているが、最近の入札では1メガワット時あたり66ユーロで落札された。1キロワット時あたりでは約8円となり、新規の原発より安いといえる。

「アストリッド放棄」、発端はルモンドの報道

 今年の8月29日、大手紙ルモンドがウェブ版ニュースでこう伝えた。

アストリッド建設中止を報じたルモンド紙ウェブ版
・原子力。フランスは第4世代炉を放棄~高速炉アストリッド計画は原子力庁(CEA)によって秘密裡に中止された。原子力産業の未来に手痛い打撃となる。
・CEAはアストリッド計画中止を決定しつつある。計画を統括していた25人のチームが春に解散した。
・CEAは「モデル炉の建設は、短期的、中期的には計画されていない」と認めた。「アストリッドは死んだのだ」とCEAの情報源は言った。

 このウェブ記事の翌日の8月30日、CEAは声明を発表。アストリッドについては「第4世代の原子炉の産業的発展は少なくとも今世紀後半」として建設計画の放棄を認めた。何らかの計画再開をするにしても2050年以降ということだ。

建設費が倍化、規模縮小の末に断念

 アストリッドは高速増殖炉の実証炉だ。フランスが先に建設した実証炉スーパーフェニックス(SPX)が早期に閉鎖(1998)となり、後続炉として2006年に計画が開始され、2020年の運転開始をめざしていた。

廃炉に向けた作業が進む高速増殖実証炉「スーパーフェニックス」=2019年7月、小川裕介撮影

 計画当時は、一時的に原子力や核燃サイクルを見直す雰囲気が世界に戻った時代だった。米国は06年、核燃サイクルによるエネルギー供給の重要さを認めつつ、不拡散にも対応する国際原子力エネルギー・パートナーシップ(GNEP)を提唱した。日本でも06年、「原子力立国計画」ができた。核燃サイクルの実用化時期を21世紀後半に先送りするなどで原子力計画の矛盾を少なくした。米国で「原子力ルネッサンス」という言葉が生まれ、世界に広がった。

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