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沖縄やんばる「イタジイの森」に皆伐の危機

貴重な固有種をはぐくむ樹木を残らず伐採する「環境配慮林業」の現場を訪ねて

桜井国俊 沖縄大学名誉教授、沖縄環境ネットワーク世話人

 10月7日に国際自然保護連合(IUCN)の調査団がやんばるの森を訪れた。日本政府が仕切り直しで改めて申請した奄美・琉球諸島の世界自然遺産登録推薦をうけての現地調査である。

やんばる森林伐採地現地視察=2019年10月27日
 このIUCN調査団の訪沖に先立ち、沖縄の自然保護団体はIUCNに対して様々な意見書を送付した。やんばるの自然保護の体制が確実に整備される形で世界自然遺産登録がなされるよう、日本政府をしっかりと指導して欲しい、というのが意見書の趣旨である。

 沖縄の自然保護団体が危惧している問題の一つは、やんばるの森で進められているいわゆる「やんばる型林業」による森の皆伐である。そこで筆者が関係している自然保護団体が中心になって、皆伐問題についての勉強会を那覇で10月26日に開催した。翌27日にはこの問題に関心のある市民約20名でやんばるの皆伐現場を訪れた。

「やんばる型林業」は林業か

 やんばるとは沖縄本島北部の国頭村・東村・大宜味村の3村を指す。沖縄県は5年前の2014年3月、「やんばる型林業の推進~環境に配慮した森林利用の構築を目指して~」と題する施策方針を発表した。この施策方針は、やんばるを「I 自然環境保全地域」「II 水土保全地域」「III 林業生産地域」の3つに区分し、自然環境保全地域の中核部(コアエリア)を「森林施業を行わず、原生的自然林の維持・継承を図る地域」としている。

イタジイが茂るやんばるの森

 しかしコアエリアは森林全体のわずか7%を占めるに過ぎず、しかもこのエリアであっても「うっそうとした森に光を当てる」ための「天然林受光伐」は除外していない。つまり「やんばる型林業」とは、やんばるの森の93%(さらには100%)での伐採を正当化する計画となっており、この森に生息する生きものたちを絶滅から守るためのものとはなっていないのである。

 2019年度の伐採地は、国頭村の辺戸(2.55ha)、宜名真(1.98ha)、宇嘉(1.88ha)の3地区であり、いずれも国頭村の村有林を国頭森林組合に払い下げし、皆伐させている。計6.41haの地区での伐採の払い下げ価格はわずか50.9万円である。材種はイタジイ、イジュ、その他の広葉樹であるが、木材としての価値は至って低く、チップ材、オガコが主たる用途であり、これでは伐採や搬出などの経費が売却額を上回ってしまう。

国頭村宜名真の皆伐現場の沢沿いのイタジイ。谷筋側に傾いている
 この赤字を埋め合わせてかろうじて黒字を保っていられるのは、谷筋に集中して生えている太い木の売却益のおかげである。常識で考えれば、黒字になる太い有用木だけを択伐すれば良いのだが、本土復帰以降の大規模皆伐のせいでやんばるには価値の高い木は殆ど残っていない。そこで採られているのが皆伐のあとの「荒れた山林」を再生するという名目で行われる植林、保育、林道の整備などであり、これは林野庁の補助対象(森林環境保全整備事業)となる。

 現在、沖縄県はこの補助金の財源として一括交付金を投入している。つまり「やんばる型林業」とは、「荒れた山林」の再生に対する補助金を目的としたものであり、これはもはや林業(木材を生産する産業)と呼べる代物ではないのだ。

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