米山正寛(よねやま・まさひろ) 朝日新聞社員、ナチュラリスト
朝日新聞社で、長く科学記者として取材と執筆に当たってきたほか、「科学朝日」や「サイアス」の編集部員、公益財団法人森林文化協会事務局長補佐兼「グリーン・パワー」編集長などを務めた。2021年4月からイベント戦略事務局員に。ナチュラリストを名乗れるように、自然史科学や農林水産技術などへ引き続き関心を寄せていく。
※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです
獲物を襲う時の泳ぎは、なんと秒速6.7メートル!
凶暴な肉食魚というイメージが強いホホジロザメ。映画「JAWS」の印象は、上映から40年以上が経った今も多くの人の心に鮮明だ。体長3~6メートル、体重300~800キロと大きく、口には鋭い歯が並ぶ。実際に海で人が襲われる被害は、国内外で今なお発生している。
そんなホホジロザメは、呼吸のために一定の水流が必要で、マグロのように常に泳ぎ続けなければならない。そして体温は、水温+10度ほどに保たれている。魚類の中でもエネルギー消費が大きな存在だが、そのエネルギーによって速く泳ぐことが可能なので、海の中を高速で泳ぎ回りながら獲物となる海生哺乳類や大型魚を探し続けている、という姿が思い描かれてきた。
でも実際に、ホホジロザメはどのように獲物を捕らえているのだろうか。これまではっきりしなかった捕食行動の解明に迫る研究の成果として、国立極地研究所の渡辺佑基准教授を含む国際チームが今年、論文(こちらとこちら)を相次いで発表した。
渡辺さんたちは、オーストラリア南部のネプチューン諸島に集まるホホジロザメを対象に調査した。ここは海中に下ろした檻(ケージ)の中に人が入り、やって来るサメなどを観察するケージダイビングの人気スポットでもある。ホホジロザメが多いのは、この海域で繁殖するニュージーランドオットセイが格好の獲物となるからだ。
用いられた調査の手法はバイオロギングと呼ばれる。水温や水深、そして遊泳速度や加速度を記録する装置(ロガー)をサメの体に取り付けることで、その行動の一部始終が、サメによって刻々と記録されていく。
取り付けに当たっては、サメの体への負担を抑え、研究者の身の危険を避けるためにも捕獲はしない。マグロの血肉などを海に流しておびき寄せたサメへボートで近づき、1メートルほどの長さのポールの先に付けたバネ仕掛けのロガーを、水面近くを泳ぐサメの背びれにはさむという方法をとる。取り付けたロガーは指定の時間が過ぎると自動的にサメから離れて海面に浮上するので、発信される電波を頼りに回収する。今回の調査ではロガーを8匹に、またビデオカメラをうち3匹に取り付けて、すべてうまく回収できたそうだ。
こうした調査によって、8匹のサメ自身が取った計186.8時間の行動記録が得られ、そのデータの解析からホホジロザメが島の周りでどんな行動をしているかをつかむことができた。
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