ほかの大型望遠鏡ではできない「広視野観測」がなぜ可能になったのか
2019年11月22日
ハワイにある国立天文台すばる望遠鏡は今年、初観測(ファーストライト)から20周年を祝った。建設計画は「世界最大の望遠鏡をつくる」という触れ込みで始まったが、完成するころには「世界最大級」に形容詞が変わった。1999年1月に観測を始めたすばる望遠鏡の口径は8.2m。同じハワイ・マウナケア山頂で93年に1台目、96年に2台目が完成したケック望遠鏡は口径10mだ。ケックは小さいユニット鏡36枚を組み合わせて口径10mとしているのに対し、すばるは1枚鏡(だからすごいんだ)、という説明を建設当時によく聞いたが、「1枚鏡として世界最大」では新聞の見出しにならないのである。さらに、2009年にはスペイン領カナリア諸島に口径10.4mのカナリー大型望遠鏡が完成し、もはや「最大級」とも言いづらくなってしまった。
だが、すばる望遠鏡の価値は、鏡の大きさとは別のところにあった。そのお陰で、並み居るライバルから頭一つ抜け出た存在感を世界に示したのだった。それは、広い視野の写真を撮れるカメラの存在である。こうしたカメラを持つ8m~10m級望遠鏡は他にない。なぜ、このユニークな特徴をすばる望遠鏡は持てたのだろうか。
大型望遠鏡はいまや目白押しといっていいほど多い。8m級はすばるのほかハワイとチリ・パチョン山の2カ所にあるジェミニ望遠鏡、ヨーロッパ南天天文台がチリのパラナル山に4台建設したVLT(Very Large telescope=超大型望遠鏡)があり、9m級は米国テキサス州にあるホビー・エバリー望遠鏡、南アフリカにある南アフリカ大型望遠鏡がある。2007年には8.1mの鏡を2枚並べて口径11.8mに匹敵する分解能を実現した大双眼望遠鏡が米国アリゾナ州に完成している。
望遠鏡を大きくするのは、なるべくたくさん光を集めて、細かいところまで見えるようにするためである。つまり、拡大率を上げるためだ。ところが、拡大率が大きくなると、一度に見えるのはごく狭い部分となってしまう。観測したい天体がどこにあるかわかっている場合はそれで良いわけだが、「宇宙のどこかにある変わった星を見つけたい」というような場合は広い範囲を一度に見る必要がある。それができる大型望遠鏡は、なんと、すばるだけなのだ。
すばるでも主鏡の下や横で観測することもでき、そこに各種の観測装置を置いている。それらを使うときは、主焦点のカメラを外して鏡に取り換える。その作業の最中に何かを落としたら、貴重な主鏡が割れてしまうというハラハラドキドキの作業である。
すばるが観測を始めたときの国立天文台長だった小平桂一さんは
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