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韓国最強棋士引退がAI研究に突きつけるもの

コンピューター科学は人間の知的文化を潰してもよいのか

伊藤智義 千葉大学大学院工学研究院教授

拡大shutterstock.com
 11月、世界的な囲碁棋士イ・セドル九段(韓国)が36歳の若さで引退した。「努力してもAI(人工知能)には勝てない」という理由があげられており(https://www3.nhk.or.jp/news/html/20191129/k10012195501000.html)、これはもしかするとコンピューター科学、あるいは人工知能研究の転換点の一つになる象徴的なできごとかもしれないと感じている。

チェスでコンピューターが勝利したときとの違い

 1997年、IBMのチェス専用スーパーコンピューター「Deep Blue」が史上最強ともいわれていた世界チャンピオンのガルリ・カスパロフに勝利した。人工知能の研究において、コンピューターがチェスで人間よりも強くなることは一つの目標であり、悲願だった。私もコンピューター科学を専門としている若手研究者の一人として、当時は素直に「すごいな」と思った。

 「その日は20世紀科学の一つの転換点となった」という番組も作られた(NHK「世紀の頭脳対決」)。しかし、“その日”は「転換点」とはならなかった。コンピューターがチェスの世界チャンピオンに勝利した「1997年5月11日」をご存じの方は少ないだろうし、研究の方向性に何らかの変化をもたらしたわけでもなかった。

 コンピューターがチェスで勝利した日が「転換点」にならなかったのに、コンピューターに敗れたトップ棋士の引退を私が「転換点」と考えるのはなぜか。

 それは、1997年と現在では、コンピューターに対する見方が大きく変化しているからである。

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筆者

伊藤智義

伊藤智義(いとう・ともよし) 千葉大学大学院工学研究院教授

1962年生。東京大学教養学部基礎科学科第一卒、同大学院博士課程中退。大学院生時代に天文学専用スーパーコンピューター「GRAPE」の開発にかかわり、完成の原動力となる。現在は「究極の3次元テレビ」をめざし研究中。著書に、集英社ヤングジャンプ「栄光なき天才たち」(原作)、秋田書店少年チャンピオン「永遠の一手」(原作)、集英社新書「スーパーコンピューターを20万円で創る」など

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