川口浩(かわぐち・ひろし) 東京脳神経センター整形外科・脊椎外科部長
1985年、東京大学医学部卒。医学博士。米コネチカット大学内分泌科博士研究員、東京大学医学部整形外科教室助手・講師・准教授、JCHO東京新宿メディカルセンター脊椎脊髄センター長などを経て、2018年より現職。日本整形外科学会専門医、日本整形外科学会認定 脊椎脊髄病医。国際関節病学会理事、日本軟骨代謝学会理事。
※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです
「効果のない薬」と「無駄な手術」の根絶こそ、正しい改革の道
2年に1度の恒例の診療報酬改定をめぐる攻防が始まった。今回、財務省は「診療報酬本体をマイナスにする」との姿勢を鮮明にしている。本体とはいわゆる「技術・サービス」の部分で、すなわち医師を含む医療従事者の⼈件費を指し、医薬品や医療材料・機器の費用が「本体以外」となる。
診療報酬の総額にあたる国民医療費は2019年度、約43兆円にまで跳ね上がっている現実がある。国家予算(101兆円)の半分に届く勢いだ。国民皆保険を維持できているのは奇跡的である。「過去10年間で国民医療費は年平均2.4%で増加している。高齢化などの要因は1.1%として、残り1.3%は人口減や高齢化の影響とは関係のない要素。医療費は賃金・物価動向を上回る高い水準だ」というのが財務省の言い分で、その是正を求めているのだろう。だが、この1.3%の「関係のない要素」の正体が、診療報酬本体なのか、それとも本体以外なのか? この問題を「効果の無い薬」と「無駄な手術」という二つの点から考察したい。
かつて小泉純一郎政権は自民党として初めて改革政党を名乗り、新自由主義経済による「小さな政府」のスタンスを打ち出して国民から熱狂的に支持された。だが医療改革では失敗している。数値目標(年間5000億円、4年で2兆円の削減)を達成できなかったからではない。「医療費削減は民営化、混合診療、ひいては国民皆保険、超高齢者医療、終末期医療など、非常にデリケートな問題にメスを入れなければ達成できない」という大きな誤解を国民に与えてしまったことこそが失敗なのだ。
大切なのは、医療費を肥大化させている主犯はだれか、ということだ。国民医療費がパンク寸前の状況で、「費用対効果」の概念が医療の世界に入ってくることは仕方がない面もあろう。だが、これはあくまで「効果がプラスである」という前提で初めて成り立つ議論である。医療費を削減するために第一に着手すべきは「効果のない薬の氾濫」の撲滅である。
この無駄を是正することによる削減可能額は、数値目標の「年間5000億円」どころの桁ではない。私が以前に論考した鎮痛剤リリカだけでも年間約1000億円分もの処方が続いており、その大部分は効能が実証されていない傷病に使われているのだ。しかもその金は海外に本社がある外資系製薬メーカーの懐へと流出している(『乱用される国内販売トップの鎮痛薬「リリカ」』)。