リチウムイオン電池の黒鉛負極を開発したのにあまり知られていないのはなぜなのか
2019年12月12日
この3人の名前が発表された10月初め、急ぎ特許について調べた私は、旭化成よりも4年早く三洋電機が特許を出願していたことを知った。世界で最初に商品化したのはソニーであるとか、グッドイナフさんの研究室で正極を開発したのは東芝の水島公一さんだったといった情報は吉野さんの受賞決定とともに広く報じられたが、三洋電機の名はとんと報道されなかった。なぜなのだろうか?という素朴な疑問を解くのが、この記事のミッションである。
まずは当事者に聞こうと思ったが、三洋電機はいまや存在しない。2011年にパナソニックの完全子会社になっている。ウィキペディアによると「グループ10万人超の巨大企業が倒産を経ずに(経営統合で)事実上消滅するという、日本の経済史でも初めてのケース」だった。いま、三洋電機のことを聞くとすれば、窓口はパナソニックの広報になる。
質問は一つ。「なぜ三洋電機のリチウムイオン電池の特許は話題にならないのか」。電話に出た広報の女性は、親切にも社内の電池の専門家に問い合わせてくれた。だが、「なにぶん昔の話であり、事情がわかる者はいなかった」という、考えてみれば「当然」の答えが返ってきただけだった。
私が特許についての情報を得たのは、特許庁が2010年4月に出した「特許出願技術動向調査報告書リチウムイオン電池」からである。そこの「リチウムイオン電池の注目特許による技術変遷図」を見ると、1981年に三洋電機が「黒鉛層間化合物を負極活物質とするリチウムイオン電池」という特許を、1985年に旭化成が「層状構造の複合酸化物正極/炭素負極の非水系二次電池」という特許を出願している。これに先立ち、1979年に英国原子力公社が特許を出願しているが、これは当時英国のオックスフォード大学で研究していたグッドイナフさんの研究成果である。
黒鉛とは、ご存じのように鉛筆の芯の材料で、炭素の結晶が層状に重なったものだ。要するに、負極の材料は三洋も旭化成も同じ炭素ではないか、と私は思った。
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