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水族館のイルカショーを国際社会はどう見ているか

種の保存、調査研究、地域漁業、娯楽…衝突する問題に日本は真正面から向き合え

諸坂佐利 神奈川大学法学部准教授

 「水族館」に対して、読者の皆さんはどのようなイメージを持っているだろうか。休日に家族や友人、恋人と訪れ、多種多様な生き物の優雅な動きや滑稽ながら愛くるしいしぐさに魅了されたり、非日常を体感したり、癒されたり。いずれにしても水族館は、私たちのアミューズメント施設であり、レクリエーションの空間であることは疑いようもない。そういった意味では、水族館の生き物は、私たちのために存在する。

海外ではイルカショーをやめる施設も出ている Svetlana Turchenick/shutterstock.com
 一方で、日本動物園水族館協会(JAZA)や世界動物園水族館協会(WAZA)の公式見解によれば、水族館という場は、動物園とともに、地球上の貴重な生物の「種の保存」(域外保全)、そしてそのための「調査・研究」、さらにはそういった学術成果を一般に普及啓発する「教育・環境教育」の場であるとされている。いわば生物の飼育、管理、繁殖、保全に向けた研究機関という側面がある。すなわち水族館は、生き物のための施設でもあるのである。

 このように、「水族館は人間のための施設であり、生き物のための施設でもある」という視点に立った際に、日本国内の水族館と呼ばれる施設には、数多くの課題が存在する。その一例として、「イルカ問題」を取り上げたい。

太地町のイルカ追い込み漁と水族館

 「イルカ問題」と聞いて、今も記憶に新しいものとして、2014年から2015年にかけて起きた騒動(これを本稿では「2015年騒動」という)がまず挙げられる。この2015年騒動では、JAZA加盟の水族館が、和歌山県太地町などで行われる追い込み漁で捕獲されたイルカなどを継続的に購入してきたことに対し、「手法が残酷だ」などとして、WAZAがJAZAの会員資格停止処分を警告。JAZAは撤回を求めて追い込み漁で捕獲されたイルカの入手を今後一切禁止すると採択した。また、その過程で、JAZAの当該採択に不満を持ついくつかの水族館がJAZAを脱退し、新たに日本鯨類研究協議会(JACRE)を立ち上げたという一連の騒動である。

「イルカを救え」と書いた横断幕を広げる反捕鯨団体のメンバーら=2014年9月、和歌山県太地町役場前
 このように書くと、2015年騒動とは「イルカ問題」の象徴的事例であり、海外から見て「残酷」とされる入手方法をめぐる一連の問題であったかのように思われるかもしれない。しかし、「イルカ問題」とは、入手方法に限定される問題ではないばかりか、捕獲や入手といった問題は、「イルカ問題」の核心でもないと、筆者は考える。では、2015年騒動が触れなかった問題とは何なのか。

 先述の通り、WAZAやJAZAが水族館は「人間のための施設であり、生き物のための施設でもある」とする以上、「イルカ問題」の核心とは、水族館でイルカショーを行う是非論や、水族館でイルカやクジラ(以下、鯨類とする)を飼育、展示すること自体の意義そのものではないか、というのが筆者の主張である。こうした主張から改めて日本の水族館を眺めると、2015年騒動の影に隠されてしまった数々の課題が浮かぶ。これらは、日本の水族館の問題でもあり、それを曖昧にしているWAZAやJAZAの問題でもあり、そして今も続く問題なのである。

ショーの是非も鯨食文化も議論を避け

 WAZAは、従来から公式ステイトメントとして、水族館とは「種の保存」、すなわち「繁殖の拠点」であると宣言しておきながら、JAZA加盟園館で繁殖施設すら持たない水族館、つまり、種の保存に貢献する可能性の極めて低い施設への批判を展開しなかった。日本には、水族館と名乗るには疑問を覚えるような施設があるという現状には目をつぶったと言えるだろう。

警察官が警戒するなか、イルカ漁に反対する団体のメンバーが港に集まった=2014年9月、和歌山県太地町

 一方、繁殖が可能な施設にも課題はあった。WAZAは、日本が鯨類を食べる文化を有している点に関して是非論に及ばなかった。少し説明が必要になるが、ここには、日本の水族館で鯨類を繁殖する努力は何のためなのか、という問題が含まれている。つまり、水族館で増やされた個体を野生復帰させた場合、その個体は食用捕獲のリスクにさらされる懸念がある。水族館で増やした個体を食用捕獲するのであれば、これは保全事業というより、水産業、養殖業ではないのか。WAZAはこうした重要な論点にも触れなかった。

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