種の保存、調査研究、地域漁業、娯楽…衝突する問題に日本は真正面から向き合え
2019年12月23日
「水族館」に対して、読者の皆さんはどのようなイメージを持っているだろうか。休日に家族や友人、恋人と訪れ、多種多様な生き物の優雅な動きや滑稽ながら愛くるしいしぐさに魅了されたり、非日常を体感したり、癒されたり。いずれにしても水族館は、私たちのアミューズメント施設であり、レクリエーションの空間であることは疑いようもない。そういった意味では、水族館の生き物は、私たちのために存在する。
このように、「水族館は人間のための施設であり、生き物のための施設でもある」という視点に立った際に、日本国内の水族館と呼ばれる施設には、数多くの課題が存在する。その一例として、「イルカ問題」を取り上げたい。
「イルカ問題」と聞いて、今も記憶に新しいものとして、2014年から2015年にかけて起きた騒動(これを本稿では「2015年騒動」という)がまず挙げられる。この2015年騒動では、JAZA加盟の水族館が、和歌山県太地町などで行われる追い込み漁で捕獲されたイルカなどを継続的に購入してきたことに対し、「手法が残酷だ」などとして、WAZAがJAZAの会員資格停止処分を警告。JAZAは撤回を求めて追い込み漁で捕獲されたイルカの入手を今後一切禁止すると採択した。また、その過程で、JAZAの当該採択に不満を持ついくつかの水族館がJAZAを脱退し、新たに日本鯨類研究協議会(JACRE)を立ち上げたという一連の騒動である。
先述の通り、WAZAやJAZAが水族館は「人間のための施設であり、生き物のための施設でもある」とする以上、「イルカ問題」の核心とは、水族館でイルカショーを行う是非論や、水族館でイルカやクジラ(以下、鯨類とする)を飼育、展示すること自体の意義そのものではないか、というのが筆者の主張である。こうした主張から改めて日本の水族館を眺めると、2015年騒動の影に隠されてしまった数々の課題が浮かぶ。これらは、日本の水族館の問題でもあり、それを曖昧にしているWAZAやJAZAの問題でもあり、そして今も続く問題なのである。
WAZAは、従来から公式ステイトメントとして、水族館とは「種の保存」、すなわち「繁殖の拠点」であると宣言しておきながら、JAZA加盟園館で繁殖施設すら持たない水族館、つまり、種の保存に貢献する可能性の極めて低い施設への批判を展開しなかった。日本には、水族館と名乗るには疑問を覚えるような施設があるという現状には目をつぶったと言えるだろう。
一方、繁殖が可能な施設にも課題はあった。WAZAは、日本が鯨類を食べる文化を有している点に関して是非論に及ばなかった。少し説明が必要になるが、ここには、日本の水族館で鯨類を繁殖する努力は何のためなのか、という問題が含まれている。つまり、水族館で増やされた個体を野生復帰させた場合、その個体は食用捕獲のリスクにさらされる懸念がある。水族館で増やした個体を食用捕獲するのであれば、これは保全事業というより、水産業、養殖業ではないのか。WAZAはこうした重要な論点にも触れなかった。
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