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今年はネズミ年 国獣に「アカネズミ」はいかが?

日本の森林で最も多い哺乳類にしてキープレイヤー

島田卓哉 森林総研 鳥獣生態研究室長

 2020年の子年にちなみ、日本にすむ野ネズミの話をしたい。

 ネズミというと、実験用のマウスか、夜の繁華街を走り回るドブネズミやクマネズミを思い浮かべる方が多いのではないだろうか。ペストなどの重篤な感染症の媒介者というイメージも強い。その一方で、日本の野山に多くの野生のネズミがすんでいることはあまり知られていない。ドブネズミのような人家周辺にすむネズミを家ネズミ、野山にすむネズミを野ネズミと呼ぶ。野ネズミは、山小屋などに入ってくることはあるが、基本的には人の営みとは無関係に生活している。

多様な日本の野ネズミ 代表はアカネズミ

樹上で採餌するケナガネズミ。体長20~30センチの体に、同じくらいの長さの尾を持つ日本最大の野ネズミだ=2019年12月15日、沖縄県国頭村、八木橋勉氏撮影
 日本列島には15種の野ネズミが生息しているが、その姿形や生活は多様である。最も小さいものはカヤネズミという体重10グラムくらいの草地にすむネズミで、ススキなどの葉を編んだ球形の巣をつくって繁殖している。最も大きいものは、南西諸島にだけ分布するケナガネズミで、最大で700グラムもあるウサギのような大きさのネズミである。この大きさにもかかわらず、ケナガネズミは主に樹上で生活している。また、ハタネズミというしばしば農作物などに被害をおよぼすずんぐりとしたネズミは、自分で掘ったトンネルを利用して、主に地中で生活している。ネズミたちの活動の舞台はとても広い。哺乳類の中でネズミが最も繁栄しているグループであるといわれる所以の一つである。

手のひらよりずっと小さなハタネズミの子ども。アカネズミなどに比べて耳が小さく目立たない=筆者撮影
 こうした中で、我々に一番身近な野ネズミといえば、アカネズミになるだろう。アカネズミは、日本全国の平地から亜高山帯の森林や草地に広く分布する体重30~60グラムくらいの小型のネズミである。そして、日本列島にしか生息していない日本固有種でもある。

 おおまかではあるが、日本列島にどのくらいアカネズミがいるか計算してみよう。私が調査を行っている岩手県の広葉樹林では、アカネズミは1平方キロメートルあたり約3000匹から25000匹が生息している。少なめに見積もって平均的な密度を3000匹とする。日本列島の面積(378,000 平方キロメートル)に森林率(約66%)と天然林率(約50%)とこの平均密度を掛ければ、アカネズミが日本全国にどのくらいすんでいるかを見積もることができる。答えは374,220,000匹となり、人間の3倍はいる計算になる。少なく見積もってもこの数なので、日本の哺乳類の中で最も数が多いのはアカネズミだろうと私は考えている。

 国鳥(キジ)や国蝶(オオムラサキ)というものは関連する学会によって決められているが、国獣というものはまだ定められていないらしい。しかし、もし日本の国獣を選ぶとしたら、アカネズミこそ相応しいのではないかと私は思っている。

ミズナラのドングリを持つアカネズミ=2012年11月10日、岩手県盛岡市、鈴木祥悟氏撮影
 このアカネズミは、都市近郊の雑木林や河川敷などにも普通に生息しているが、残念ながらその知名度は低い。学名(Apodemus speciosus)のspeciosusはラテン語で「美しいもの」という意味だそうだが、実際に茶褐色の毛並みとお腹の白い毛とのコントラストが美しい動物である。

食物連鎖の基盤であり、森の恵みを育む役割も

 アカネズミを国獣に推す理由は、数や見た目だけではない。アカネズミは、日本の森林におけるキープレイヤーなのである。森からアカネズミがいなくなってしまったらどうなるかと考えれば、その果たしている役割が見えてくるだろう。

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