日本のような男女の不平等度が高い社会では、数学の性差は大きくなる
2020年01月13日
お詫びと訂正(2020年1月21日)
2020年1月13日に公開した本稿で、数学オリンピックに関する記述において「数学オリンピック代表選手の女子の人数」としていた部分は「日本数学オリンピック本選の女子成績優秀者の人数」の誤りでした。これに伴い、他のいくつかの数字と表現にも誤りがあり、1月21日に正しい記述に訂正しました。編集部の確認が不十分でした。読者のみなさまにお詫びします。
女子の数学能力について最近、いろいろな統計が研究報告されている。例えば、Niederle and Vesterlund(2010)、Fryer and Levitt(2010)、Cai他(2019)などである。それらの報告に共通している推定結果を先まわりして提示してしまうと、次のような統計的事実だ。
[統計的事実]
(1) 女子は男子と比較すると数学に弱い
(2) それは脳の機能や生物学的な原因ではない
(3) 男女平等な社会ほど数学での性差は小さい
(4) 数学的能力が高い女子は女子校に多い
筆者はこれらの事実から、次のことを主張しようと思う。
「娘を数学女子に育てたければ、女子校に進学させよ」
数学のできる女子は、平均生涯所得も高くなるし、リケジョはもてる、という報告もあり、いろいろなご利益があるだろう。以下、その根拠を詳細に書いていく。
日本数学オリンピック(JMO)という大会がある。国際数学オリンピック (IMO) へ参加する日本代表選手を選ぶため、国内で開かれる数学コンテストだ。2019年は4108人が参加し、上位の23人が本選で成績優秀者に選ばれている。大会は1990年から開催されており、この本選での成績優秀者から女子のみをピックアップし、その所属校を表にした。
これは実人数の表で、もちろん中には複数回、本選に出場して優秀成績を修めている女子も存在するが重複はカウントしていない。
まず、注目したいのは女子率の低さだ。1990〜2019年の30年間の全成績優秀者は398人。そのうち、女子はたったの13人である(のべ人数で言えば、595人のうち女子は21人)。統計的判断をするには標本が少ないが、あえて乱暴な推定をすれば、そのうちの約半数は女子校の生徒だ。全国には高校が4897校あり、このうち共学校が9割以上を占め、女子校は299校で6%しかない。比率を考えれば、半数というのは大きな偏りである。これは、前記の[統計的事実]と整合的な結果だ。
数学オリンピックにおけるこの傾向は、他の国でも見られる。国内大会を勝ち抜いて世界大会に出場した各国の女子選手のほとんどは、エリート校(女子校かどうかは不明)に集中している。これは、上位成績の男子がさまざまな学校に点在していることと明らかな好対照をなしている。つまり、数学オリンピック選手の所属校は男女で明らかに性質が異なっているわけだ。
多くの統計的検証で、女子は男子に比べて数学に弱いことが報告されている。その一方、読解や口頭試験では男子に勝る能力を発揮する。数学の性差は、小学校3年生ぐらいから現れ、標準偏差の20パーセントほどの差がつく。それはあらゆる社会階層で共通に観測される事実である。
なぜ、女子が数学で男子に劣るのかについて、最近の研究では、生物学的な理由に求めないものが多い。それらの研究では共通に、「女子はプレッシャーに弱く、競争を嫌う傾向がある」ことに理由を見出している。女子は男女混合の環境下では、プレッシャーの影響で力を発揮できないというのだ。この性向は、実験室での報酬付きモニター実験でも検証され、また、国家的な大規模テストにおける点数の分布の性差からも実証されている。女子が読解や口頭試験には強いのに数学には弱いことは、数学が正解・不正解のはっきりした競争的な科目であることから来ると推測されている。
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