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米国のイラン司令官殺害の隠されたリスク

止められないドローン技術のテロへの転用、懸念される環境破壊

山内正敏 地球太陽系科学者、スウェーデン国立スペース物理研究所研究員

 トランプ政権が、議会の承認もなく、イラン要人をイラク公式滞在中に暗殺した。衝撃的な事件である。

殺害されたイラン司令官の追悼集会で声を上げる人たち=2020年1月5日午後、ベイルート、竹花徹朗撮影
 私はこの事件に「大統領選=戦争開始カード」を感じた。というのも、トランプ信者はトランプ大統領が何をやっても支持を変えない(それは安倍内閣の支持率が3割を絶対に切らないことと同根だ)一方で、世の中には相手を攻撃(復讐)して溜飲を下げる者が少なからずいて(復讐モノの小説が本・ネットを問わず人気があるのは、その表れ)、そういう者で普段棄権したりどっちつかずの投票をしたりする人々はキャスティングボートたりうる票田だからだ。

 そこに働きかけるのが「戦争開始カード」である。本(もと)を正せば今回の負の連鎖は、核兵器開発を疑われていたイランと米英仏独中ロが2015年に結んだ「イラン核合意」をトランプ政権が一方的に破棄したことから始まっている。外国から見たらきわめて理不尽なカードであるが、支持率は短期的には確実に上昇する。

ドローン技術の進歩によるピンポイント暗殺

 いま最大の関心事は、これが何を引き起こすかだ。イランによる反撃だけが懸念されているのではない。何せイスラム過激派ISを(米国と協力して)ここまで追いつめたイラン軍事チームの上層部を殺したのだ。当然ながら、イスラム国が息を吹き返し、シリア・イラクが再び不安定になるのではないか、という不安が募る。それどころか、ギリギリ命脈を保っていた核合意がほぼ白紙に戻ることで、イスラエルまで巻き込んだ負の連鎖で大量の難民が生まれることが否応無しに想像される。欧州に住む我々には、5年前の大量難民流入の悪夢が今も消えない。英国のEU離脱も、それが直接の引き金となっている。

 5年前の難民危機も、本を正せば米国がシリアに介入した結果、三つどもえ(シリア政府、IS、反政府)の内戦となったことが原因だ。介入自体の是非は何とも言えないが、その後、難民に十分な救いの手を差し伸べなかったオバマ政権に私は大いに失望したものだ。 米国は、軍事介入による難民に責任を持たない(ベトナム戦争後のボートピープルすら「元味方」だから助けたに過ぎない)。

キリスト教福音派の支持者らの前で演説するトランプ米大統領=2020年1月3日、フロリダ州マイアミ、渡辺丘撮影

 さて科学技術の視点で見ると、今回の殺害は無人機技術の怖さを改めて示した。ドローンが、個人レベルの操縦で、一国のインフラを麻痺させる(爆破だけでなく、空路の障害になる)ことは既に実証されている。今回はそこから一歩進んで、どんなに警備の厳しい要人ですら、ピンポイントで暗殺できるということを証明した。これは今後、同様のテロが頻発する可能性を示唆している。自爆テロと違い、ドローンなら何処にでも飛んで行けるからだ。

 ドローン技術は

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