最新研究で明らかになった対策の有無と生物が暮らせる地域の増減
2020年01月24日
気候変動対策では、温室効果ガス(GHG)の排出を減らす「緩和策」と、増えたGHGによる悪影響を抑える「適応策」が車の両輪と位置づけられている。IPCC(気候変動に関する政府間パネル)では、GHG濃度に関する代表濃度経路(RCP)シナリオを4つ設けている。わかりやすく、濃度が高い順に濃度シナリオ1、2、3、4としよう。濃度シナリオ1は、世界平均気温が産業革命以前に比べて約4.5度(予測の中央値)上昇する。濃度シナリオ4は気温上昇を約2度に抑制するシナリオになる。残る二つはそれらの中間のシナリオである。
もう一つ、緩和策目標を達成するための土地利用変化などの対策も考慮するシナリオがある。共通社会経済経路(SSP)で、これは5つ設けている。SSP1は持続可能、SSP2は他の4つのシナリオの中庸、SSP3は地域分断、SSP4は格差、SSP5は化石燃料依存と呼ばれている。SSP1なら特に追加の緩和策をとらなくても濃度シナリオ2に収まり、SSP5で二酸化炭素の回収、貯蔵(CCS)などの緩和策をとらなければ濃度シナリオ1、すなわち4.5度上昇するとされる。濃度シナリオとSSPの組み合わせごとに、バイオ燃料栽培などの土地利用変化のシナリオも異なる。
一方、生物多様性条約関連のIPBES(生物多様性及び生態系サービスに関する政府間科学-政策プラットフォーム)では、生物多様性を損なう主たる要因として①土地利用変化、②気候変動、③乱獲、④外来種、⑤環境汚染の5つを挙げている 。この5つの要因のうちIPCCのシナリオがあるのは気候変動と土地利用変化だけだが、シナリオごとに定量的なモデルを用いて生物多様性損失の将来予測が可能になってきた。
現在の各生物種の分布情報から、それぞれの種が生息する気象や植生などの環境条件を求める。これを種の分布モデル(SDM)という。IPCCで用いる気候変動シナリオによって将来の気象と植生などが変化した場合、種の分布域ひいては潜在生息地面積が変化し、絶滅リスクも試算される。その際に、生物の移動速度を考慮し、移動しない場合、自由に遠隔地にも移動できる場合、生物分類群に応じた中庸の移動力がある場合などを仮定する。こうして、気候変動シナリオとSDMから生物多様性喪失の将来予測ができる。
2018年のドイツのゼンケンベルク生物多様性・気候研究センターのC.Hofらの論文によると、濃度シナリオ2に比べて、濃度シナリオ4は生物多様性損失が激しいという結果が出た。濃度を低く抑えた方が生物多様性が失われるという衝撃的な予測である。ただし、
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