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気候変動対策は生物多様性を損なわないか

最新研究で明らかになった対策の有無と生物が暮らせる地域の増減

松田裕之 横浜国立大学大学院環境情報研究院教授、Pew海洋保全フェロー

拡大shutterstock.com
 気候変動は最重要の地球環境問題である。だが、二酸化炭素の排出を抑えるためにバイオ燃料農地を大幅に拡大すれば、それ自体が自然破壊になり、生物多様性を損なうという指摘もある。生物多様性も含む地球環境への影響を評価する必要があると2015年度から5年計画で研究してきたのが、私も参加した環境研究総合推進費「気候変動の緩和策と適応策の統合的戦略研究」である。その成果を紹介しつつ、気候変動対策のこれからについて考えてみたい。

気候変動シナリオと種の分布モデルを合わせる

 気候変動対策では、温室効果ガス(GHG)の排出を減らす「緩和策」と、増えたGHGによる悪影響を抑える「適応策」が車の両輪と位置づけられている。IPCC(気候変動に関する政府間パネル)では、GHG濃度に関する代表濃度経路(RCP)シナリオを4つ設けている。わかりやすく、濃度が高い順に濃度シナリオ1、2、3、4としよう。濃度シナリオ1は、世界平均気温が産業革命以前に比べて約4.5度(予測の中央値)上昇する。濃度シナリオ4は気温上昇を約2度に抑制するシナリオになる。残る二つはそれらの中間のシナリオである。

 もう一つ、緩和策目標を達成するための土地利用変化などの対策も考慮するシナリオがある。共通社会経済経路(SSP)で、これは5つ設けている。SSP1は持続可能、SSP2は他の4つのシナリオの中庸、SSP3は地域分断、SSP4は格差、SSP5は化石燃料依存と呼ばれている。SSP1なら特に追加の緩和策をとらなくても濃度シナリオ2に収まり、SSP5で二酸化炭素の回収、貯蔵(CCS)などの緩和策をとらなければ濃度シナリオ1、すなわち4.5度上昇するとされる。濃度シナリオとSSPの組み合わせごとに、バイオ燃料栽培などの土地利用変化のシナリオも異なる。

 一方、生物多様性条約関連のIPBES(生物多様性及び生態系サービスに関する政府間科学-政策プラットフォーム)では、生物多様性を損なう主たる要因として①土地利用変化、②気候変動、③乱獲、④外来種、⑤環境汚染の5つを挙げている 。この5つの要因のうちIPCCのシナリオがあるのは気候変動と土地利用変化だけだが、シナリオごとに定量的なモデルを用いて生物多様性損失の将来予測が可能になってきた。

 現在の各生物種の分布情報から、それぞれの種が生息する気象や植生などの環境条件を求める。これを種の分布モデル(SDM)という。IPCCで用いる気候変動シナリオによって将来の気象と植生などが変化した場合、種の分布域ひいては潜在生息地面積が変化し、絶滅リスクも試算される。その際に、生物の移動速度を考慮し、移動しない場合、自由に遠隔地にも移動できる場合、生物分類群に応じた中庸の移動力がある場合などを仮定する。こうして、気候変動シナリオとSDMから生物多様性喪失の将来予測ができる。

ドイツの研究と反対の結果を出した日本の研究

 2018年のドイツのゼンケンベルク生物多様性・気候研究センターのC.Hofらの論文によると、濃度シナリオ2に比べて、濃度シナリオ4は生物多様性損失が激しいという結果が出た。濃度を低く抑えた方が生物多様性が失われるという衝撃的な予測である。ただし、

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筆者

松田裕之

松田裕之(まつだ・ひろゆき) 横浜国立大学大学院環境情報研究院教授、Pew海洋保全フェロー

京都大学理学部および同大学院博士課程卒業(理学博士)、日本医科大学助手、水産庁中央水産研究所主任研究官、九州大学理学部助教授、東京大学海洋研究所助教授を経て 2003年より現職。GCOE「アジア視点の国際生態リスクマネジメント」リーダー(2007-2012)、日本生態学会元会長、日本海洋政策学会理事、個体群生態学会副会長。ヨコハマ海洋みらい都市研究会共同代表。

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