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感染症予防措置は「厳しいほど良い」わけではない

2009年の新型インフルエンザと1976年の「豚インフルエンザ事件」からの教訓

高橋真理子 朝日新聞 科学コーディネーター

拡大関西空港の検疫検査場で実施されているサーモグラフィーによる発熱のチェック=2020年1月22日、関空、筋野健太撮影
 中国の湖北省武漢市で流行が始まった新型コロナウイルスによる肺炎について、世界保健機関(WHO)が2020年1月30日夜(日本時間31日未明)に「国際的に懸念される公衆衛生上の緊急事態」を宣言した。1週間前には宣言を見送っており、「判断が遅い」「中国政府に遠慮しているのでは」といった批判も聞こえる。しかし、WHO初の緊急事態宣言が出た2009年の新型インフルエンザのときは、後になって「あれほど厳戒態勢をとる必要はなかった」という批判を受けたのだった。「予防措置は早ければ早いほど、厳しければ厳しいほどよい」という主張は不安にかられる人たちに受け入れられやすいが、感染症対策はそんな単純な話ではないことを私たちも知っておきたい。

まだ不確実性が大きい今回の新型コロナウイルスの危険度

 今回の新型コロナウイルスがどのくらい危ないものなのかは、まだはっきりしない。もともとコロナウイルスは風邪の原因ウイルスとしてありふれたもので、それほど危険でないと考えられていた。しかし、2002年に中国で流行したSARS(重症急性呼吸器症候群)や2012年に中東で流行が始まったMERS(中東呼吸器症候群)は、コロナウイルスでありながら致死率が高く、専門家の認識を一変させた。

 SARSの患者数は2002年11 月〜2003年8月で中国を中心に8096人で、うち774人が死亡した。ここから致死率を計算すると9.5%となる。日本で患者は出てない。結局、流行は続かず、2003年7月にWHOが終息を宣言した。

 MERSは中東地域では今も断続的に患者が発生している。日本では患者が出ていないものの、韓国では2015年に38人が死亡し、2018年にも中東に出張していた男性の発症が確認された。WHOによると、致死率は34.4%ときわめて高い。

 下は2月1日付ニューヨークタイムズに載った図を日本語にしたものだ。縦軸は対数目盛りで表示された致死率である。横軸は患者1人が何人にうつすかを示した数字だ。

拡大ニューヨークタイムズ2月1日付「How Bad Will the Coronavirus Outbreak Get? Here Are 6 Key Factors」より
https://www.nytimes.com/interactive/2020/world/asia/china-coronavirus-contain.html?action=click&module=RelatedLinks&pgtype=Article

 これを見ると、新型コロナウイルスについてはまだまだ不確実性が大きいことがわかる。それでも、最悪のケースでも致死率はMERSやSARSより低い。対数目盛りであるから、実際には格段に低いといえる。さらに最善のケースだと、季節性のインフル(普通のインフルエンザ)とほとんど変わらない。もっとも、普通のインフルエンザに対し、私たちは「結構こわいもの」という認識を持つべきだとは思う。 

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筆者

高橋真理子

高橋真理子(たかはし・まりこ) 朝日新聞 科学コーディネーター

朝日新聞 科学コーディネーター。1979年朝日新聞入社、「科学朝日」編集部員や論説委員(科学技術、医療担当)、科学部次長、科学エディター(部長)などを務める。著書に『重力波 発見!』『最新 子宮頸がん予防――ワクチンと検診の正しい受け方』、共著書に『村山さん、宇宙はどこまでわかったんですか?』『独創技術たちの苦闘』『生かされなかった教訓-巨大地震が原発を襲った』など、訳書に『ノーベル賞を獲った男』(共訳)、『量子力学の基本原理 なぜ常識と相容れないのか』。

 

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