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日本はなぜ環境後進国になったのか?

「温暖化対策の優等生」という神話が、いまだに信じられているワケ

明日香壽川 東北大学東北アジア研究センター/環境科学研究科教授

 日本の温暖化対策に対する国際社会の評価は、多くの日本人の直感(思い込み)に反して、極めて低い。ここでは、その事実を紹介しつつ、理由についても考える。

下から数えた方が速い

 ジャーマン・ウォッチというドイツのシンクタンクが、毎年、14の指標に基づいた世界主要排出国約60カ国温暖化対策パフォーマンスのランキングを公表している。

 そこでの日本の順位は、下から数えた方がはるかに速い。具体的には、2020年は下から11番目、2019年は下から12番目、2018年は下から11番目、2017年は下から2番目であった(この時の最下位はサウジアラビア)。

日本の温暖化対策を批判するNGOメンバー。石炭火力発電所はその象徴だ=2019年12月、スペイン・マドリード、FoE Japan提供  日本の温暖化対策を批判するNGOメンバー。石炭火力発電所はその象徴だ=2019年12月、スペイン・マドリード、FoE Japan提供

 他にもいくつかのシンクタンクが温暖化対策数値目標のランキングを出しているが、それらも日本は低い評価である。東日本大震災の前も後も変わらない。かつて筆者は、国際政治分野のアカデミックな論文で、米国、ロシア、オーストラリア、日本の4カ国を「気候変動交渉でのギャング・オブ・フォー(四人組)」と表現しているのを見たことがある。

 昨年(2019年)12月のスペイン・マドリードで国連気候変動枠組み条約第25回締約国会議(COP25)でも日本は批判された。

 例えば、会期終盤の12月11日、環境NGOの国際的な連合体であるCAN Internationalが開いた記者会見で、「どの国が目標引き上げの議論に消極的か?」という質問に、壇上のパネリストが「オーストラリア、米国、日本」「いつものメンツ(usual suspects)」と答えた。同様の発言は、他の場所で他のNGOからも聞かれた。

日本での温暖化問題の「軽さ」

 日本では、「もったいない」「エコ」「地球にやさしい」「クールビズ」といったような言葉は氾濫(はんらん)している。最近では「SDGs」や「ESG」という言葉もよく聞く。しかし、すべて「軽い言葉」であり、多くの人は、温暖化問題に対する責任は感じていない。

 こうなった理由の大きな一つは、「日本は温暖化対策の優等生」という神話を、政府や産業界が流し続けたことがある。また、「日本の優れた革新的技術やイノベーションで解決する」という技術神話も、繰り返し流された。それゆえに、「これ以上の温暖化対策は不要」「米国や中国がやれば良い」「技術が何とかする(技術で何とかすれば良い)」と多くの日本人が考えている。

温暖化は社会正義の問題

 一方、国際社会では、「温暖化問題は、社会正義、特に貧困、格差、人権、雇用、差別、南北問題などの問題そのものであり、社会システム全体の大きな変革を必要とする、極めて政治的な問題」と捉える認識がますます強くなっている。

なぜ、日本は不名誉な化石賞を授賞し続けるのか。コメントする小泉進次郎環境相=2019年12月、マドリード、松尾一郎撮影なぜ、日本は不名誉な化石賞を授賞し続けるのか。コメントする小泉進次郎環境相=2019年12月、マドリード、松尾一郎撮影

 化石燃料会社、1%の富裕層、先進国および途上国の政治的支配層、ウォール・ストリート、ネオ・リベラル主義者、新植民地主義者、白人至上主義者、先住民やマイノリティーや難民を虐げる人々、人権を踏みにじる人々、そして温暖化対策に反対する人々は、みな同じであり、財産や命を奪うという意味では略奪者あるいは殺人者であり、彼らに対抗し、社会システムを変革することこそが正義だと考える。すなわち、根本的に認識が違う。

日本のメディアも問題

 こうなってしまったのには、メディアにも責任がある。COP25終了直後の2019年12月17日の朝日新聞の社説「気候変動会議:これでは未来が危ない」を例に取り上げたい。朝日新聞は、相対的には温暖化問題に極めて積極的な新聞社である。しかし、この社説の中には、下記のようにミスリーディングな記述が二つあった。

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