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死について語り合ったCancerXサミット2020

家族や仲間、ご近所とオープンに話し合う場が必要だ

北原秀治 東京女子医科大学講師(解剖学講座)

拡大「CancerXスペシャル いのち~生きるとは?~」の様子=2020年2月2日、東京ミッドタウン日比谷
 「産学官民及び医療者等の連携を通じて、がんに関わる包括的な社会課題の解決を達成し、もって、がんと言われても動揺しない社会を実現することを目的とする」一般社団法人CancerXが2020年2月2日に開いた「CancerXサミット2020」で、「死」にフォーカスを当てた議論が行われた。筆者はこのセッション「CancerXスペシャル いのち~生きるとは?~」をCancerX共同発起人の一人である半澤絵里奈氏(株式会社電通プロデューサー)とともにオーガナイズした。

拡大登壇者たち。左から⻄智弘氏、秋山正子氏、伊藤高章氏、大橋洋平氏、鈴江奈々氏
 すべてが縦割りになっているがん行政、医療、研究、社会、当事者の世界において、人生の共通話題である「死」というものを皆で話し合うことで、本当の意味での分野融合が起こるのではないかと思い、批判も覚悟で組み立てた。「がん=死」ではないが、「がんと死」は常に考えなければいけない。日本の文化として、死について話し合うことは難しいと感じているが、今回の議論を通じ、オープンに話し合う場が世の中には必要だという思いを強くした。

 登壇者は、緩和ケア医で、自身ががん患者の大橋洋平氏、「社会的処方」で有名な緩和ケア医の⻄智弘氏、認定NPO法人マギーズ東京センター長・共同代表理事で看護師の秋山正子氏、上智大学大学院実践宗教学研究科教授死生学専攻主任・上智大学グリーフケア研究所副所長の伊藤高章氏で、モデレーターは日本テレビアナウンサー鈴江奈々氏が務めた。

「余命」ではなく「足し算の命」という考え方

 大橋氏は、消化管の壁にできる悪性腫瘍の一種(肉腫)であるGIST(消化管間質腫瘍)を患い、手術も抗がん剤治療も受けたのだが、転移が見つかり、その後は手術などの侵襲的な治療を受けない決断を下した。緩和ケア医として働いていると、同じ疾患で亡くなる患者を目にする時もある。つい自分と重ねてしまうことも度々あるそうだ。

 「がん生きる」と決断はしたものの、定期検診のCTを見る直前はやはり緊張するそうで、常に「病変が無くなってほしい」と願いながら「やっぱりそこにあるのか」と現実に引き戻されるという。初めて患者会に参加した時は、腫瘍の悪性度を測る指標である腫瘍細胞分裂像数の値がどちらが⾼いかを気さくに話している場⾯に出くわし、患者として初めてほっとしたという。現在は、とにかく患者の話を聞く「傾聴」を行なっているそうで、自身が患者になって、より「傾聴」が大事なものであり、患者は話を聞いてほしいし、その時間が重要だということもわかったと語った。

 今回、体調もあまり良くない中、登壇を引き受け、登壇中は自身の経験を、三重訛(なま)りで笑いを入れながら気さくに話してくださった。会場からも重い話題を明るく語れる雰囲気がすばらしいとの意見が出たぐらいである。

 転移が見つかった時、自身は緩和ケア医で、このようなことを言ってもしょうがないとわかっているのに、どのくらい生きられるかを主治医に聞いたそうである。しかし「あと何年生きられるかという余命は、半年でも1年でも3年でも、必ずその日が来る。つまりただ命が減るだけ。だから引き算ではなく、転移がわかった日から生きられた日数を足していく“足し算命”をするように心がけることにした」というのだ。「残りの命」ではなく、「足し算の命」ということである。

 CancerXに登壇した日は、転移の告知を受けてから300と1日目だそうで、この登壇を目標に、それだけ生きることができたと話してくれた。「足し算命」、この言葉で約500人の会場が一つになれた感がした。

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筆者

北原秀治

北原秀治(きたはら・しゅうじ) 東京女子医科大学講師(解剖学講座)

東京女子医科大学大学院医学研究科修了。博士(医学)。ハーバード大学博士研究員を経て現職。専門は人体解剖学、腫瘍病理学、医療経済学。日本政策学校、ハーバード松下村塾で政治を学びながら、「政治と科学こそ融合すべき」を信念に活動中。早稲田大学大学院経済学研究科在学中。海外日本人研究者ネットワーク(UJA)理事。

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