須藤靖(すとう・やすし) 東京大学教授(宇宙物理学)
東京大学大学院理学系研究科物理学専攻教授。1958年高知県安芸市生まれ。主な研究分野は観測的宇宙論と太陽系外惑星。著書に、『人生一般二相対論』(東京大学出版会)、『一般相対論入門』(日本評論社)、『この空のかなた』(亜紀書房)、『情けは宇宙のためならず』(毎日新聞社)、『不自然な宇宙』(講談社ブルーバックス)、『宇宙は数式でできている』(朝日新聞出版)などがある。
※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです
東日本大震災時に訴えた「批判より提言の時」をいま再び
政府の対応にある程度の問題があることは事実であるが、今はそれを批判することよりも、次にどうすべきかを一丸となって考え、協力して進めることが本質である。この時期にいたっても、批判や怒りをぶつけるだけしかできないコメンテーターが少なからず見受けられる。それらは現状が完全に落ち着いてから好きなだけやればよい。特に通常のワイドショー形式を維持したままの、素人達のやり取りは無益どころか有害ですらあり得る。特に子供たちにとって、「悲観的」な現状ばかり繰り返し見せられることによる精神的なストレスは無視できまい。少しでも子供たちに安らぎを与えられるような良質な子供向け番組を放送し続けることには大きな意味があると思う。
上述の文章は、今回書いたものではない。2011年3月17日のwebronzaの拙稿『批判より提言の時―混乱を責められるか』の一部を、ほぼそのままコピペしただけだ(削除した部分はあるが、「悲惨」を「悲観的」に修正した以外、追加した文章はない)。コロナウイルスによって社会が大混乱に陥っている現状は、まさに東日本大震災の際の状況と多くの共通点がある。特にテレビを通じて繰り返し流される情報・意見発信のあり方には既視感を禁じ得ない。まさに素人である私が、あえてこの件について書いてみたいと思った理由がそこにある。
はじめにお断りしておくと、私は、防衛・教育研究問題に関して現政府とはかなり異なる価値観をもっている。また、事実の隠蔽や歪曲などが疑われる事例に対する政府の対応には強い違和感をもつ。今回のコロナウイルス問題に対する種々の対応にも問題があるとは思う。しかし、今はその後の結果論に基づいて、過去の対応に批判を繰り返してばかりいる時期ではない。
例えば、
1月末に中国人入国全面拒否に踏み切るべきだった。ダイヤモンド・プリンセス号の乗客・乗員は全員下船させ隔離し、直ちに全員にPCR(Polymerase Chain Reaction)検査を実施すべきだった。陰性となった乗客を帰宅させた際には、公共交通機関を利用させず専用のバスで送り届けた上で、しばらく自宅待機を要請すべきだった
……などなど。
それらは実現可能性と波及効果の双方を考えて選択されるもので、その時点で波及効果を正しく予想することは不可能である。いずれにせよ批判が巻き起こることは避けられない。仮に自分が責任ある立場だったとして、状況が読みきれない状態で賛否が分かれる重要な決断を正しくできたとは思えない。テレビのワイドショーで毎日同じような批判を繰り返している人々も同じだろう。