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根拠ない批判が生みだす「医療崩壊」とウイルス拡大

社会的パニックに呼ぶだけで、感染は止まらない 非建設的な情報発信の害悪

川口浩 東京脳神経センター整形外科・脊椎外科部長

 全国の小中高が臨時休校し、企業はテレワークを進める。WHO(世界保健機関)や米国疾病対策センターは世界的大流行(パンデミック)の懸念を表明し、日本政府は入国拒否対象地域を拡大する……。

地下鉄車内を消毒する京都市交通局の職員ら=2020年3月4日、京都市伏見区
 新型コロナウイルス(COVID-19)に対するネガティブな情報が世界中にあふれ、社会不安があおられて経済活動も悪影響を受けている。医療関係者の中には「学術的根拠もないまま、怖がっているだけ」という意見もあるし、WHOや日本政府の一貫性のない方針と施策は「その場しのぎの責任逃れ」と受け取られても仕方ない。これをメディアが攻撃し、ますます不安が広がっているのが昨今の状況だ。悪循環が止まらない危機である。

迅速で大胆に行動した中国政府

 このような日本と比べて、海外の動きの早さは対照的だ。中国疾病対策センター(CDC)は2月11日までに収集した莫大な患者データを分析した(資料1ならびに資料2)。公衆衛生レベルの高さと世界に向けた情報発信力は驚愕に値する。

 WHOもこの中国CDCに対するヒアリングをもとに報告書を作成し、中国政府の動きを評価している。かつてのSARS(重症急性呼吸器症候群)の時よりも対応が改善されている点などを強調し、春節の連休直前というタイミングで迅速かつ大規模な対応が取られたとしている。私も中国政府の動きは非常に迅速だったと思う。SARSの場合は、WHOへの報告から新規ウイルス性疾患の同定までに2カ月を要したが、今回は1週間で新型コロナウイルス(2019-nCoV)を同定した。

電子顕微鏡で見た新型コロナウイルス=米国立アレルギー・感染症研究所提供
 ただし、この報告書にはWHO自身の具体的な指針や方策が書かれていない一方、中国の対応を正当化するトーンが目立つことが気になる。WHOのテドロス事務局長は元エチオピア外相で、その頃から中国の多くの支援を受けていた。いわば中国とはツーカーの関係で、それが中国寄りの報告書の背景になっているのではないか。

 感染が報告されて既に2カ月も経過しているのに、WHOが積極的な行動を起こしていないのも、中国CDCに頼ってすべてを丸投げしている印象だ。WHOは一刻も早く、自分たちの責任で今後の対策のあり方を打ち出すべきである。

高い死亡率の背景に「医療崩壊」はないか

 そして中国CDCが分析した感染症の中身も気がかりだ。PCR検査で陽性となった4万4672例の年齢分布は、80歳以上が3%、30~79歳が87%、20~29歳が8%、10~19歳が1%、9歳未満が1%である。湖北省の患者が75%を占め、そのうち86%が武漢市と関連がある。軽症が81%、呼吸困難などの重症が14%、呼吸不全や敗血症性ショックなどの重篤・危篤が5%だ。死亡は1023例で、すべてが重篤・危篤例からだとしている。

 死亡率は全体で2.3%となり、重篤・危篤例の中では49.0%に達する。高齢者ほど死亡率が高く、70~79歳で8.0%、80歳以上で14.8%だ。また、基礎疾患がある患者も死亡率が高く、心疾患で10.5%、糖尿病で7.3%、慢性呼吸器疾患で6.3%などとなっている。これらの数字を見ると、必ずしも「たちの悪い風邪」「インフルエンザ程度」などと済ませられないレベルだ。

無観客で開催された東京ガールズコレクション=2020年2月29日、東京都渋谷区、瀬戸口翼撮影

 その背景に「医療崩壊」が隠れている恐れを否定できない。武漢市を含む湖北省で、社会的パニックによって軽症者が病院になだれ込み、地域医療が崩壊したことで感染拡大したことも考えられる。高率で院内感染が起き、全体の死亡率を引き上げたかも知れないのだ。

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