川口浩(かわぐち・ひろし) 東京脳神経センター整形外科・脊椎外科部長
1985年、東京大学医学部卒。医学博士。米コネチカット大学内分泌科博士研究員、東京大学医学部整形外科教室助手・講師・准教授、JCHO東京新宿メディカルセンター脊椎脊髄センター長などを経て、2018年より現職。日本整形外科学会専門医、日本整形外科学会認定 脊椎脊髄病医。国際関節病学会理事、日本軟骨代謝学会理事。
※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです
社会的パニックに呼ぶだけで、感染は止まらない 非建設的な情報発信の害悪
全国の小中高が臨時休校し、企業はテレワークを進める。WHO(世界保健機関)や米国疾病対策センターは世界的大流行(パンデミック)の懸念を表明し、日本政府は入国拒否対象地域を拡大する……。
新型コロナウイルス(COVID-19)に対するネガティブな情報が世界中にあふれ、社会不安があおられて経済活動も悪影響を受けている。医療関係者の中には「学術的根拠もないまま、怖がっているだけ」という意見もあるし、WHOや日本政府の一貫性のない方針と施策は「その場しのぎの責任逃れ」と受け取られても仕方ない。これをメディアが攻撃し、ますます不安が広がっているのが昨今の状況だ。悪循環が止まらない危機である。
このような日本と比べて、海外の動きの早さは対照的だ。中国疾病対策センター(CDC)は2月11日までに収集した莫大な患者データを分析した(資料1ならびに資料2)。公衆衛生レベルの高さと世界に向けた情報発信力は驚愕に値する。
WHOもこの中国CDCに対するヒアリングをもとに報告書を作成し、中国政府の動きを評価している。かつてのSARS(重症急性呼吸器症候群)の時よりも対応が改善されている点などを強調し、春節の連休直前というタイミングで迅速かつ大規模な対応が取られたとしている。私も中国政府の動きは非常に迅速だったと思う。SARSの場合は、WHOへの報告から新規ウイルス性疾患の同定までに2カ月を要したが、今回は1週間で新型コロナウイルス(2019-nCoV)を同定した。
ただし、この報告書にはWHO自身の具体的な指針や方策が書かれていない一方、中国の対応を正当化するトーンが目立つことが気になる。WHOのテドロス事務局長は元エチオピア外相で、その頃から中国の多くの支援を受けていた。いわば中国とはツーカーの関係で、それが中国寄りの報告書の背景になっているのではないか。
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