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新型コロナウイルス対策で専門家の顔が見えない日本

政府には正確で平易な情報発信ができる感染症に強いスポークスパーソンが必要だ

浅井文和 日本医学ジャーナリスト協会会長

拡大新型コロナウイルスのイメージ(shutterstock/creativeneko)
 新型コロナウイルスの感染が拡大する中で、テレビや新聞、雑誌、ネットメディアなどにさまざまな専門家が登場して見解を述べている。なかには専門家同士で見解が食い違うことがある。知識と経験をもつ感染症対策専門家からは「あの人のコメントは間違っている」という話が聞こえてくるのだが、一般国民には誰が信用できて誰が信用できないのか区別がつかない。不安が広がってしまう。この際、政府や公的機関からの情報発信が重要になる。国民に正確でわかりやすく安心できるメッセージを伝えられるか、その手腕が問われている。

英ジョンソン首相は専門家と会見

 3月3日、英国のボリス・ジョンソン首相が記者会見を開き、感染拡大に備えた「行動計画」を発表した。

 日本の安倍晋三首相の記者会見と大きく違うのは、ジョンソン首相の左右に専門家が並んだことだ。向かって左側にイングランド主席医務官のクリス・ホイッティ氏、右側に政府首席科学顧問のパトリック・バランス氏。両氏ともに医師で、特にホイッティ氏はロンドン大学衛生熱帯医学大学院教授を務めた公衆衛生の専門家だ。記者から学校休校について質問が出ると、ジョンソン首相は「原則として学校を休校にすべきではないと考えているが、学校当局はイングランド公衆衛生局の助言に従うべきだ」と述べ、ホイッティ氏が具体的に答えた。

拡大英国のジョンソン首相が3月3日に開いた記者会見。左にホイッティ氏、右にバランス氏という専門家が並んだ=英SUN紙のサイトから
 ジョンソン首相は記者会見の冒頭、行動計画の4項目(感染の封じ込め、感染拡大の遅延、研究、被害軽減)を述べたあと「このウイルスと戦うために私たちができることを忘れてはなりません。私たちの手を洗うことです。『ハッピーバースデー』を2回歌うのにかかる時間、石けんと湯で手を洗ってください」と呼びかけた。危機の時、わかりやすく具体的な対策の呼びかけだ。

 英国の主席医務官は19世紀のビクトリア女王時代に設けられ、当時流行していたコレラ感染症対策などを担ってきた。今回の新型コロナウイルス感染症に限らず、公衆衛生上の問題について医学的な知見にもとづいて政府に助言してきた。

米トランプ大統領会見にも専門家

 米国ドナルド・トランプ大統領の新型コロナウイルス感染症に関する記者会見でも後ろに専門家が控えている。

 2月26日にホワイトハウスで開いた記者会見では米国疾病対策センター(CDC)の首席副所長アン・シュケット氏(医師)、新型コロナウイルス感染者で米国初の死亡者が確認されたことを受けた2月29日の記者会見ではCDC所長のロバート・レッドフィールド氏(医師)が大統領の後ろに立った。

 記者会見でのトランプ大統領の発言は時には民主党攻撃になり、あまり科学的とは言えなかったが、専門家たちは丁寧でわかりやすい発言を心がけていた。

拡大記者会見でグラフを掲げて話す米国のトランプ大統領。右がシュケット氏=2月26日、ホワイトハウス、ランハム裕子撮影
 シュケット氏はCDCのウェブサイトで多くの情報を提供していると述べ、「インフルエンザで人々が毎年行うような日常的で賢明な対策はここでも重要です。咳をカバーする、病気のときは家に居る、手を洗う」とだれでも出来る対策を強調した。
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筆者

浅井文和

浅井文和(あさい・ふみかず) 日本医学ジャーナリスト協会会長

日本医学ジャーナリスト協会会長。日本専門医機構理事。医学文筆家。1983年に朝日新聞入社。1990年から科学記者、編集委員として医学、医療、バイオテクノロジー、医薬品・医療機器開発、科学技術政策などを担当。2017年1月退社。退社後、東京大学大学院医学系研究科公共健康医学専攻修了。公衆衛生学修士(専門職)。

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