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福島原発事故の本当の怖さ教える「フクシマ・フィフティ―」と最悪シナリオ

「幸運」と「偶然」が止めた東京避難、そして日本3分割という展開

竹内敬二 エネルギー戦略研究所シニアフェロー

 2011年3月11日に発生した東京電力福島第一原発の事故。この事故が「どんな事故だったのか」「どれほど危険だったのか」についての分かりやすい説明はまだない。

 しかし、3月6日公開の映画「フクシマ・フィフティ―」は、原発が停止したあと、原発内に残った職員の奮闘をかなり忠実に再現している。菅直人首相(当時)の戯画化の仕方には疑問を感じるが、全体として原発内で何が起きたのかがよく分かる映画になっている。

 もう一つ、事故当時「最悪シナリオ」と呼ばれる報告書が密かにつくられた。近藤駿介・原子力委員会委員長(当時)らが、起こりうる破局的なケースを割り出し、簡単な報告書にまとめて菅首相に提出したものだ。事故がその通りに進んでいたら、「東京も避難地域」になっていたかもしれないという内容である。

 映画「フクシマ・フィフティ―」と「最悪シナリオ」は、あの事故が破局の寸前まで行ったことを教えてくれる。その内容と怖さをだれもが知り、社会で共有すること。今もっともすべきことだろう

拡大地震と津波の襲来から一夜が明け、職員らが対応に追われていた頃の福島第一原発=2011年3月12日、朝日新聞ヘリから

2号機の格納容器が爆発する!

 「フクシマ・フィフティ―」は、真っ暗な原発内で職員たちが事故拡大と闘う姿を描いている。目前に迫った最大の危機は、2号機格納容器の爆発だった。事故3日後の3月14日から格納容器の内圧が、設計で保証された4気圧のほぼ2倍まで上がった。どうしても下がらず、15日朝には「爆発は避けられない状況」に至り、それを知る原子力関係者は大騒ぎになった。これは事実である。

 すでに1、3号機では「水素爆発による建屋の破壊」が起きていたが、格納容器の爆発は恐ろしさのケタが違う。濃い放射能の蒸気がまき散らされ、その汚染で原発スタッフは退避せざるをえず、残された福島第一原発(6基)、福島第二原発(4基)、それぞれの原子炉や使用済み燃料プールがやがて、爆発、破損する危険がある……。

 映画の中では、そうなった場合の汚染規模について、渡辺謙が演じる吉田昌郎第一原発所長らが会話を交わす。

 「チェルノブイリの10倍だ。首都圏だけでなく、東日本は壊滅だ」「放射能汚染は半径250キロ、避難の対象は5000万人」

 実際の事故では、この格納容器爆発は起きなかった。その理由はいまだにはっきりしない。格納容器は「爆発的に壊れる」と思われていたが、裂け目ができるなどして「プシュー」という形での圧力低下が起きたのではないかとされている。大量の放射能は放出されたが、それでも「幸運」だったといえる。

3日間の徹夜で出された報告書

 「最悪シナリオ」の報告書がつくられたきっかけは、この2号機の格納容器爆発をめぐる騒ぎだった。首相官邸は「今後、何が起きるのか分からない」と思い始めた。

拡大「最悪シナリオ」の報告書の表紙

 3月22日ごろ、首相官邸が近藤委員長に最悪シナリオの作成を求めた。近藤氏は専門家を集め、3日間、徹夜でコンピューターを回してはじき出した。報告書の表紙には「福島第一原子力発電所の不測事態シナリオの素描 平成23年3月25日 近藤駿介」とある。

 この報告書の目的は「福島第一原発においては、今後新たな事象が発生して不測の事態に至るおそれがないとはいえない。この資料はこの不測の事態の概略の姿を示すものである」と書かれている。起こりうる最悪シナリオを想定し、いざという時の避難などを考える資料にする、ということだ。

 そして

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筆者

竹内敬二

竹内敬二(たけうち・けいじ) エネルギー戦略研究所シニアフェロー

エネルギー戦略研究所(株)シニアフェロー。元朝日新聞編集委員。科学部記者、ロンドン特派員、論説委員などを務め、環境・原子力・自然エネルギー政策、電力制度などを担当してきた。温暖化の国際交渉、チェルノブイリ原発事故、3・11などを継続的に取材。著書は、電力業界が日本社会を支配するような社会産業構造がなぜ生まれたのか、なぜ福島事故がおきたのかを描いた『電力の社会史 何が東京電力を生んだのか』(朝日選書、2013年)。

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