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新型コロナウイルス感染症「COVID-19」の数字を読む

現況の「見かけの感染率」を読み解き、地域による「感染危険度」の違いを探る試み

下條信輔 認知神経科学者、カリフォルニア工科大学生物・生物工学部教授

 たとえばあるデータで韓国の感染者数7755人に対して日本は568人なので、韓国は日本に比べて14倍近く病気が蔓延していると思いたくなる。だがもちろん、韓国の総人口は日本の約4割程度だ。それなのに14倍も感染者がいるということは、比率でいうと約35倍(=14x2.5)も蔓延していることになる……と結論していいだろうか。これも実は大まちがいだ。問題は(すでに指摘されているように)両国間で検査数の桁ちがいな点だ。

日本と韓国、検査数が桁違い

 もし検査がまったくランダムに全人口から無作為に抽出して行われるなら、検査総数に対する陽性反応者数(=感染者数)の比こそが、より良い「蔓延」の指標だと思われる。そこで別の資料でみると、検査総数は韓国189,236に対して日本8,411とあり、2桁もちがう(Business Insider 3月9日;国ごとにばらつきがあるが2月末〜3月上旬のデータ)。ここで単純に「(みかけの)感染率=感染者数/検査数」とすると、韓国4.1%(=7,755/189,236)に対して、日本は6.8% (=568/8,411)となり、最初の印象とは逆になってしまう。

拡大ソウル郊外の高陽市では、新型コロナウイルスの検査にドライブスルー方式が登場した=同市提供
 しかしもちろん、「検査は無作為抽出」という前提に大きな問題があり、まさにこの検査態勢にこそ日韓のちがいの主因がある。というのも韓国では「ドライブイン検査」などと言われるように、とにかく数をこなすことに重点が置かれている。これに対し日本では最近まで「重症患者を優先的に」という方針が採られていて、それが検査数の2桁のちがいにも現れている。

 この行政府の政策のちがいを考慮すれば、日本では韓国以上に感染率が大幅に過大評価されている。より一般的に言えば、検査数の各国間でのちがいは、社会全体の危険度認知の度合いにプラスして、「医療体制の充実度」x「政策のちがい」を反映する。

拡大図2 感染者数の推移と国・地域の内訳。中国の増加率は減り、他国が急増している
 また無症状や潜伏期間中の感染者はそもそも検査にたどりつくのか、陽性になるのかなど、様々な要因を推定しないと、最終的に蔓延の実態にはたどり着けない。そのあたりが、プロの感染症学者や防疫学者の仕事になるわけだ。

 さらに言えばクルーズ船の扱いをどうするかとか、検査の基準や医療環境など、国家間でちがう要因もあって複雑だ。ここまでの分析でも、感染者数だけで蔓延をうんぬんできないことは明らかだ。半面、同じ国内での同じ指標は比較的条件が一定しているので、時間経過に伴う増加や減少の傾向(図2)は、素直に読んでいいかもしれない。

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筆者

下條信輔

下條信輔(しもじょう・しんすけ) 認知神経科学者、カリフォルニア工科大学生物・生物工学部教授

カリフォルニア工科大学生物・生物工学部教授。認知神経科学者として日米をまたにかけて活躍する。1978年東大文学部心理学科卒、マサチューセッツ工科大学でPh.D.取得。東大教養学部助教授などを経て98年から現職。著書に『サブリミナル・インパクト』(ちくま新書)『〈意識〉とは何だろうか』(講談社現代新書)など。

※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです

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