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新型コロナウイルス感染症「COVID-19」の数字を読む

現況の「見かけの感染率」を読み解き、地域による「感染危険度」の違いを探る試み

下條信輔 認知神経科学者、カリフォルニア工科大学生物・生物工学部教授

 日本政府は「初動の失敗を隠すために検査数を極力抑え、感染を過小に見せようとしている」「実際、検査能力比べて実施数が桁外れに少ない」。そういう批判がかねてからある。この批判が的を得ているのかいないのか、それを評価する上でも、上記の「検査総数のちがい」に加えて、「見かけの感染率」の数字を考えることが参考になるだろう。

「感染の危険性」に冷静な読み解きを

 「検査数が少なければ、感染者数も少なくなる」のは当たり前だ。意図的だったかはともかく、「国外からの対応評価と、経済との両天秤」という観点から言えば、日本政府はうまくやっているとも言える。ただしその評価は大きなリスクを無視している。それというのは「無症状感染者・軽症者から高齢者などへの(気づかない)感染」ということもあるが、何よりも大きいのは、感染の全体像が把握できないことだ。

 パンデミックとなった今や、感染経路をたどる初期のアプローチは、もはや意味がないのではないか。代わりに、世論調査などで用いられるランダムサンプリングの手法を使い、バイアスなしの現状評価も加味してみてはどうか。医療崩壊を防ぎ、人命救助・治療と社会制度・経済のバランスを取る上で役立つ。また国(地域)別の評価にも威力を発揮する。

拡大表 WHO, 厚労省や各メディア発表を筆者が集計、なるべく3月9日でそろえた
 また「私たちが知りたいのは蔓延の度合い、すなわち感染率」と書いたが、本当に知りたいのは「感染の危険性」とも言える。カナダのように人口密度が低いところでは、香港(、東京、ニューヨーク)のような人口密度の高いところに比べて、先の「見かけの感染率」が同じでも、感染の危険は実質低いとみなせる。単純に人口密度を危険ファクターとし、「見かけの感染率」と掛け合わせた「感染危険度」の各国比較を示す(表)。

拡大図3 筆者作成。矢印は最近の傾向。検査が急増して結果待ちの状況の日本は「?」とした。
 この表からは患者の絶対数とはちがう傾向が読み取れる。また北海道が東京より感染が多いのは、クラスター感染の発生や観光シーズンの来訪者の多さ、北国の建物の高い密閉性などが指摘されるが、要は人が密集する場所が多いほど危険ということだ。北海道の人口密度は東京の100分の1程度なので、全体としてみれば(札幌などは別として)感染の危険は低いともいえる。

 情勢は流動的だ。日本ではPCR検査への保険適用などで、検査数の急増が見込まれる(3月10日の厚労省発表の検査実施人数は10024人)。ただここで示した見方は今後もデータを読む助けとなるはずだ。数字を操る怪しげな扇動に惑わされないようにしたい。

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筆者

下條信輔

下條信輔(しもじょう・しんすけ) 認知神経科学者、カリフォルニア工科大学生物・生物工学部教授

カリフォルニア工科大学生物・生物工学部教授。認知神経科学者として日米をまたにかけて活躍する。1978年東大文学部心理学科卒、マサチューセッツ工科大学でPh.D.取得。東大教養学部助教授などを経て98年から現職。著書に『サブリミナル・インパクト』(ちくま新書)『〈意識〉とは何だろうか』(講談社現代新書)など。

※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです

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