新型コロナ「収束のカギ」にぎる集団免疫とはなにか
メルケル首相が語った「全人口の60~70%が感染する」の本当の意味
唐木英明 東京大学名誉教授、公益財団法人「食の安全・安心財団」理事長
3月14日現在、新型コロナの感染は世界の110カ国に広がり、感染者は12万人、死者は4700人を超えている。政府は国民に外出の自粛、休校、そしてスポーツ・文化イベントの自粛を要請したが、その社会的影響は大きく、市民生活も経済も大きく混乱している。新型コロナ問題はいつまで続き、どのような形で収束するのだろうか。
この見通しを考える上で欠かせないのが、「集団免疫」についての正しい理解である。集団免疫とはなにか。政府の対策の根拠である専門家会議の見解や各国の状況をよみときながら、そこに登場する集団免疫の考え方やしくみについて検討し、新型コロナ対策の今後を考えてみたい。
専門家会議の見解と安倍政権の判断のズレ

児童が感染した小学校で消毒作業をする教職員ら=2020年3月6日、山口県下関市、貞松慎二郎撮影
新型コロナウイルス感染症への対策を検討するため、安倍首相は第一線の研究者を構成員とする専門家会議(座長=脇田隆字・国立感染症研究所長)を設置。専門家会議は2月24日、「ここ1~2週間が、急速な拡大に進むか、収束できるかの瀬戸際となる」との見通しを発表していた。
この「2週間後」にあたる3月9日、専門家会議が開かれ、次のような見解を示した。
- 現在は爆発的な感染拡大には進んでおらず、一定程度、持ちこたえている。 しかし、感染者数は、当面、増加傾向が続くと予想されるので、依然として警戒を緩めることはできない。
- 北海道で2月28日に出された「緊急事態宣言」の効果については、3月19日ごろに公表する。
- 今後、国内での急速な感染拡大を抑制できたとしても、世界的な流行が進んでいることから、国外から感染が持ち込まれる事例も、繰り返されるものと予想される。
要するに、2週間様子を見た結果、爆発的な感染拡大には進まなかったのだ。少なくともこれで医療崩壊が起こるような状況が避けられたことは明らかである。そうであれば、所期の目的を達成したのであり、社会的な混乱の急速な拡大を避けることも考えて、自粛をそろそろ緩和してもいいと考えられる。ところが、政府はそうはしなかった。専門家会議の見解を受けて、安倍首相は自粛をさらに10日間継続することを国民に要請し、選抜高校野球大会も中止が決まった。