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学校全休・イベント一律中止措置はやめるべきだ

法律改正だけでは意味がない、感染対策の検討体制の整備を優先させよ

米村滋人 東京大学大学院法学政治学研究科教授

拡大「分割」で行われた北海道の公立中学校卒業式=2020年3月13日、新十津川町の新十津川中学校(同校提供)
 新型コロナウイルス感染症の拡大による社会的混乱が止まらない。安倍首相は、2月26日に大規模イベントの開催自粛を、27日に学校全休を要請したが、これを受けて現実に大半の学校は臨時休校となり、多くの集会・イベントが延期や中止に追い込まれている。

 しかし筆者には、政府も多くの国民も、ウイルスを恐れるあまり冷静な判断ができなくなっているように思えてならない。筆者は医療に関する法制度を専門とする法学者であるが、内科医として診療にも従事している。そのような筆者からは、学校全休・イベント中止措置は、社会的弊害が大きい上に感染対策としても合理性がないように見える。いま行うべきは、目立つ集会を手当たり次第に中止することではなく、今回のウイルスの特性を踏まえた明確な戦略を立てた上で、最も有効な対策を着実に実行することである。以下ではそのことを詳しく説明したい。

法の想定しない事態が起きた

 まず、今回の新型コロナウイルスの特性を理解する必要がある。既にある程度明らかになっている情報の中で重要なのは、次の3つの点である。

(1)感染者の8割は軽症または無症状であり、不顕性感染(感染していても症状がなく、本人が感染に気づかない状態)も多いことが予想される。
(2)潜伏期間は2週間程度とされているが、それより長い可能性も示唆されており、潜伏期間中の感染者も他者に感染させることがある。
(3)重症患者には高齢者や基礎疾患を有する者の割合が圧倒的に多く、若年者は少ない。子どもの重症者はほとんど報告がない。

 このうち、(1)(2)の特性はウイルスの制圧が非常に難しいことを意味する。つまり、感染者のかなりの割合が無症状で、しかし他人に感染させる可能性があるのだから、症状のある者をいち早く見つけて隔離するなどしても感染拡大は抑えられないのである。これは、日本のこれまでの法律・行政が基本的に想定していなかった事態である。

拡大改正新型インフルエンザ等対策特別措置法が可決、成立したときの参院本会議=2020年3月13日午後、岩下毅撮影

 現在の感染症予防法は、人権侵害的な隔離政策を主軸としていた旧伝染病予防法などに代わり、1998年に制定された。現在の法律では、人権侵害的な要素は改善されたものの、基本的な感染症対策の考え方が大きく変わったわけではなく、発症者に対する強制的治療等の措置(仮に「発症者対応モデル」と呼ぶ)が感染症対策になるという考え方には変わりがない。

 ところが、今回の新型コロナウイルスでは無症状者からの感染が無視できない感染経路であるとすると、発症者対応モデルは対策として不十分であり、発症の有無にかかわらず、一定範囲の国民全体に行動制限を加える措置(仮に「全社会対応モデル」と呼ぶ)が必要になる。これは感染症予防法の想定を超えた事態であり、そのため、安倍首相の学校全休等の要請は法的拘束力のない「要請」にならざるを得なかったわけである。3月13日に成立した改正新型インフルエンザ等特別措置法は、その種の措置を法的に可能にするものにほかならない。

学校全休・イベント中止は合理的か

 もっとも、全社会対応モデルを採用するとしても、誰にどのような行動制限をかけるかは選択肢が多く、学校全休やイベント自粛の措置が適切かどうかは改めて検討する必要がある。

 これに関しては、再び新型コロナウイルスの特性を考慮する必要がある。前述の特性(3)は、重症者が高齢者等に集中していることを意味し、このウイルスの特徴としてきわめて重要である。しかしそうすると、リスクの低い子どもをターゲットにした対策に合理性があるかが問題になる。実際、子ども自身に対するリスクという意味では、すべての学校の活動を止めることに合理性はない。

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筆者

米村滋人

米村滋人(よねむら・しげと) 東京大学大学院法学政治学研究科教授

2000年東京大学医学部卒。東大病院等に勤務の後、東京大学大学院法学政治学研究科修士課程修了。日本赤十字社医療センター循環器科勤務を経て、2005年より東北大学大学院法学研究科准教授。以後、法学の教育・研究を行う傍ら、循環器内科医として診療にも従事。2013年より東京大学大学院法学政治学研究科教授、2017年から現職。専門は民法・医事法。