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続・新型コロナウイルス感染症「COVID-19」の数字を読む

検査がもっている不確実性と認知バイアス

下條信輔 認知神経科学者、カリフォルニア工科大学生物・生物工学部教授

 表を見てもらえばわかる通り、まず信号(医療検査なら被験体)の側に、信号(感染)あり/なしの二通りがある(表の左欄)。これに対し応答(検査結果)は、いうまでもなく陽性/陰性の二通りだ(上段)。

拡大実は「陽性」判定にも「陰性」判定にも2種類がある。PCR検査は感度が低いため、特にこの偽陽性が増える問題がある
 ここで重要なのは、陽性判定といっても「本当に感染していてその通りに正しく陽性と判定された」という場合(HIT)と、「実は感染していないのに誤って陽性と判定された」という場合(False Alarm;偽陽性)の二通りがあることだ。だからこの二つを合わせた全体の陽性判定の中で、HITの割合がどれほどかを見る必要がある。それが「陽性で、実際に感染している確率」になる。

 答えが26%と驚くほど低いのは、この二つ目(False Alarm)が実は大きな割合を占めているからだ(図参照)。逆に、「陰性と判定されて、実際には感染している確率」は、この条件下では極めて低く、0.3%しかない。つまり偽陰性はほとんど出ない。

 言ってみればこの検査方法は、目の粗い網のようなものだ。本当の魚(感染者)をしばしば逃してしまうが、小魚(非感染者)を誤って捉えることはほとんどない。感染者10人のうち7人にしか正しく「陽性」の判定を出せないほど、網の目は粗いが、本当の被感染者を「陽性」と間違えて網にかける割合は2%しかない。

拡大横軸は対数目盛り。左端は1000人にひとり、右端は10人にひとりが本当に感染している場合を示す。(coding by Kensuke Shimojo)
 このように証拠(検査結果)から原因(感染の有無)を推定する方法を「ベイズ推論」といい、そこで使われる確率をベイズ確率と呼ぶ。ベイズ確率がしばしば直感に反することはよく知られていて、いろいろ論争もある(本欄拙稿『心理リアリティと原発』、Shimojo & Ichikawa, Cognition, 1989などを参照)。

 検査についてひとつ強調しておきたいのは、上記確率が母集団の感染率によって大きく変わることだ。感度、特異度の値によっても、いくらか変わってくる(グラフ参照)。

むやみに検査数を増やす弊害

 ここまで、検査の不確実性を確率で論じてきたが、現実に何か示唆があるだろうか。

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筆者

下條信輔

下條信輔(しもじょう・しんすけ) 認知神経科学者、カリフォルニア工科大学生物・生物工学部教授

カリフォルニア工科大学生物・生物工学部教授。認知神経科学者として日米をまたにかけて活躍する。1978年東大文学部心理学科卒、マサチューセッツ工科大学でPh.D.取得。東大教養学部助教授などを経て98年から現職。著書に『サブリミナル・インパクト』(ちくま新書)『〈意識〉とは何だろうか』(講談社現代新書)など。

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