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日本の持続可能性を阻む「現実逃避」と「神風幻想」

改定SDGs実施指針から見える現状不認識と乏しい問題意識

谷淳也 Future Earthシニア・アドバイザー、環境・社会評論家

 新型コロナウイルスによる世界の大混乱で、2020年代が始まった。私たちの社会はこのまま持続できるのか。世界でも日本でも問われている。これから2030年までの10年、さらに2050年までの30年で、その答えが見えてくるのだろう。

持続可能な開発目標(SDGs)実施指針改定版を決めた推進本部会合=2019年12月20日、首相官邸、岩下毅撮影拡大持続可能な開発目標(SDGs)実施指針改定版を決めた推進本部会合=2019年12月20日、首相官邸、岩下毅撮影

 2015年、国際連合は持続可能な未来への道標として「持続可能な開発目標(SDGs)」を含む「持続可能な開発のための2030アジェンダ」(以下「国連アジェンダ」)を決議した。日本政府も、SDGs達成への取り組みを国家戦略と宣言し、内閣府内に推進本部を設けて、「SDGs実施指針」「SDGsアクション・プラン」を打ち出した。

 そして昨年12月には、改定したSDGs実施指針(以下「改定指針」)が発表された。この改定に際しては、民間有識者からなる円卓会議を通じて様々なステークホルダーの声を吸い上げる試みがあり、筆者もその過程に少し関わる機会を得た。その印象は、私たちの社会を持続にするはずのこの国のSDGsへの取り組み自体に、その持続可能性を危うくする色々な問題点が現れているというものだった。

持続可能性と国連アジェンダ

 世界では、人類の生存を脅かす根本的な問題として、地球温暖化や生物多様性・生態系の劣化など地球規模の環境破壊が深刻になっている。また、まだ7億人もいる絶対的貧困層(1日1.9米ドル未満で生活する人々)や水・食料・衛生にこと欠く人々は、見過ごせない人道的問題であり、地域の安定を損なう安全保障問題でもある。

SDGsの17目標拡大SDGsの17目標
 さらに、各国で広がる経済格差が、人々の不満や分断、対立を高めている。そして、少なからぬ国で人権や民主主義が踏みにじられている。これらの状況は相互に関連し人種や宗教などと絡まって、地域や世界を不安定にし、人類社会の持続可能性の大きなリスクになっている。

 日本も、このような世界のリスクを共有している。国内でも、強大な台風や豪雨、酷暑など異常気象が多発し、地球温暖化の影響が顕在化している。私たちは、食料や水(仮想水を含む)、地下資源など、生きる糧の多くを海外に頼っている。また、私たちの経済や生計は、自動車や電子部品等の輸出、外国人旅行者からの収入、海外投資収益など海外からの稼ぎに支えられている。今や外国人労働者は、産業に不可欠の存在だ。世界が持続不能になれば、日本社会も直ちに持続不能になる。

 日本固有の問題もある。この国は失われた30年ともいう長い停滞にあって世界の成長に取り残され、国際的な地位も低下し続けている。そんな中で、世界に先駆けて急激な人口減と高齢化が始まった。そう考えると、世界よりも日本社会の持続可能性の方が厳しい状況ともいえる。

 アジェンダ前文は、「私たちは、人類を貧困及び欠乏の恐怖から解放し、地球を回復し保全することとし、世界を持続可能でレジリエントな道筋に移すためにすぐに必要な大胆で変革的な行動をとることを決意する」と、貧困・欠乏の解消と地球環境の保全を核に、世界の持続可能性を目指すことを宣言する。

 日本の私たちは、まずアジェンダに参加して自らを含む世界の問題を解決し、同時に、自国独自の課題も克服しなければならない。この目がくらむような難局を乗り越えるには、世界全体の情勢とその中で日本の置かれた状況を正しく認識し、的確な戦略を考え実行する必要があるのだ。

 では、改定指針は、日本をそのように導いてくれるのだろうか。

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筆者

谷淳也

谷淳也(たに・じゅんや) Future Earthシニア・アドバイザー、環境・社会評論家

1958年山口県生。下関西高高等学校、東京大学卒。東京銀行(現・三菱UFJ銀行)、Citigroup(米)、UBS、Credit Suisse(共にスイス)で金融ビジネスに従事。その後、障害者支援、地方活性化、教育など幅広く社会活動にかかわり、ヨハン・ロックストローム著「小さな地球の大きな世界」の翻訳を契機に地球環境問題に取り組む。