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「日常をできるだけ維持する」スウェーデンのコロナ対策

「緩い制限」の背後にある国民の理性と民主主義

山内正敏 地球太陽系科学者、スウェーデン国立スペース物理研究所研究員

拡大スウェーデン政府ホームページの「ヘルスケア」ページの最初に掲げられているアドバイス
 欧州ではイタリアを皮切りに、次々にコロナ対策のための移動制限・外出制限・集会制限を始めて、今や、スウェーデンだけが孤立したように「緩い制限」状態となっている。外国からは色々言われ始めているし、国内の医学関係者からも異論が出ているが、国は「日常をできるだけ維持」という基本戦略を変えていない。そこに科学的事実に基づいた冷静さと多面的で長期的な視点を感じる。以下、スウェーデン独自の戦略の背景を説明する。話の性質上、私の印象に偏るのは勘弁してもらいたい。

公衆衛生局が政府より強い立場にある

 スウェーデンの政策を語る上で切り離せないのが、今回のコロナ流行のように専門知識が強く要求される緊急事態に関して、それを専門とする部局の判断が重視されるという点がある。今の場合300人の構成員からなる公衆衛生局であり、政府はそこのアドバイスに基づいて対策を決定する。だから担当の専門家は首相以上にマスコミに名前が出る。

 全ての対策にデメリットがある以上、それを正確に評価する必要がある。公衆衛生局はそこまでする。なので、全ての政党からたやすくコンセンサスが得られ、政府は毎週の党首会談で合意したのちに対策を発表する。そこに世論特有の「安心の過剰な要求」に従うような非科学的な政策は生まれない。

拡大日本では、新型コロナウイルス対策で、卒業式を校庭で開いた小学校も=2020年3月25日、東京都足立区千住桜木1丁目の千寿桜小学校、福留庸友撮影

 一番良い例が学校閉鎖だろう。西欧の各国が次々と雪崩を打つように学校閉鎖を始めたが、スウェーデンは今も中学以下をやっている。そもそも15歳以下は感染率も死亡率も極端に低いことが分かっていて、子供の生活リズムや子供の学ぶ権利と遊ぶ自由が奪われるという学校閉鎖の弊害を考えれば、メリットよりデメリットのほうが多いことは疫学的に明らかだ。日本でも問題になった。

 心配な者は休めば良いだけの話だ。ストックホルムの小学校で体育を教える知り合いによると「先生の3分の1、生徒の4分の1が休んでいる」そうだ。授業はやや遅れ気味だが、しないよりはるかにマシだ。しかも医療関係者の中にこれらの年齢の子供を持つ親が多く、学校閉鎖が医療機関への負担を高める。そこまで考えると、イタリア北部やマドリッドのような最悪事態でない限り小学校の閉鎖はあり得ない選択だ。

 実は、北欧の他の国の公衆衛生局も学校閉鎖を良しとしなかった。しかし、

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筆者

山内正敏

山内正敏(やまうち・まさとし) 地球太陽系科学者、スウェーデン国立スペース物理研究所研究員

スウェーデン国立スペース物理研究所研究員。1983年京都大学理学部卒、アラスカ大学地球物理研究所に留学、博士号取得。地球や惑星のプラズマ・電磁気現象(測定と解析)が専門。2001年にギランバレー症候群を発病し1年間入院。03年から仕事に復帰、現在もリハビリを続けながら9割程度の勤務をこなしている。キルナ市在住。

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