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コロナ危機をさらなる危機にする専門家依存

「学者」「難しい理論」というだけで主張を鵜呑みにしてはいけない

須藤靖 東京大学教授(宇宙物理学)

 20世紀の伝説的な物理学者として知られているリチャード・ファインマンは数々の名言を残している。私が高校生や大学生に講演する際、しばしば引用するのは

僕はみなさんが専門家を,たまにどころか,必ず疑ってかかるべきだということを,科学から学んで頂きたいと思います.事実,僕は科学をもっと別な言い方でも定義できます.科学とは専門家の無知を信じることです.

という一節。これは、従来の常識や対策が役に立たず、全く新たな行動様式や対応が求められている現状においてこそ、肝に命じておくべく言葉である。

拡大41歳のリチャード・ファインマン=1959年
 誤解を避けるべく付け加えておくと、決してこれは「専門家を信じるな」と述べているわけではない。科学とは、異なる専門家が提唱した様々な仮説を検証し、ふるいにかけることで、徐々に真実が解き明かされる営みであることを強調したものだ。例えば、新型コロナウイルスに関して多くの新たな研究結果が発表されつつある。それらは、現時点ではいずれも仮説と呼ぶべきものであり、それが正しいかどうかは、専門家集団が時間をかけて明らかにするであろう。逆に言えば、最終的には過渡期に提案された仮説の多くは間違っていたことがわかるはずだ。

「ゲーム理論だと…」への違和感

 通常、我々が学ぶ科学知識はそのような過程の結果として確立したものなのである。その途中過程はほとんど知られていないので、科学は常に正しい、という誤解を与えているかもしれない。しかし、科学が正しさを獲得するにはある程度の時間がかかる。

 ある専門家が「著名な医学雑誌にこのような結果が報告されています」とテレビで発言したとしても、その結果が正しいとは限らない。むしろ、現時点でできるだけ多くの仮説を提示しておくことのほうが重要であると考えれば、その仮説が間違っている可能性が高いことも、うなずける。それどころか、間違った仮説が数多く提案されたからこそ真実が解明できるのだ。専門家集団による時間をかけた試行錯誤を通じて確立した科学的結論は信頼性が高いものの、個々の専門家をその時点で信じてはいけないというのが、ファインマンが言いたかったことだと思う。

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筆者

須藤靖

須藤靖(すとう・やすし) 東京大学教授(宇宙物理学)

東京大学大学院理学系研究科物理学専攻教授。1958年高知県安芸市生まれ。第22期・第23期日本学術会議会員。主な研究分野は観測的宇宙論と太陽系外惑星。著書に『ものの大きさ』、『解析力学・量子論』、『人生一般二相対論』(いずれも東京大学出版会)、『一般相対論入門』(日本評論社)、『三日月とクロワッサン』、『主役はダーク』『宇宙人の見る地球』(いずれも毎日新聞社)などがある。

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