感染対策を新たな大学授業の改革へと反転させよう
2020年04月13日
都市部を中心に新型コロナウイルスの感染者の増加は収まる気配が見られない。そのため授業開始をゴールデンウィーク後に遅らせた大学が多い。だが実際に授業を再開できるかは未知数だ。感染増加地区から移動してくる大学生に、観察期間を求めず、連休が明けるとすぐにキャンパスに迎え入れることにはリスクを伴うだろう。
また、大学生からは「気を許すと街をプラプラするかもしれないと自分のことを言われたと思った」と正直なコメントもあった。ある方は「すぐに息子に知らせて読ませた」と話された。これらの感想を聞くなかで、いまの大学の授業が昔とは大きく変わっている現状をご存じない方が多いことも知った。これらのことを併せて、続編として論じてみる。
大学生は週に数日しか大学に行かず、教室ではおしゃべりばかりしている……。もしそんなイメージを持っておられたら、それはステレオタイプな描写をするテレビドラマの中だけの世界だと、どうか考え直していただきたい。教授が古いノートをただ淡々と読み上げるような古色蒼然とした情景などは、いまの大学にはない。
ここで、とくに中高年以上の世代のみなさんに向けて、一つ質問してみたいことがある。次の言葉をいくつご存知だろうか。
GPA 反転授業 アクティブ・ラーニング ファカルティ・デベロップメント アドミッションポリシー カリキュラムポリシー ディプロマポリシー PBL インストラクション・デザイン ラーニングアウトカム キャップ制 ナンバリング ティーチングアシスタント ピアサポート ラーニングコモンズ ルーブリック……
これらは大学などが取り組んできた教育改革にまつわる用語である。カタカナ語が多いことに、拒絶反応を持たれる方もいるかも知れない。意味がすぐに通じにくいことは確かに残念ではある。だが重要なのは、その内容だ。目指すは教育の質保証である。
たとえば最初の「GPA」はグレード・ポイント・アベレージの略で、近年広がっている成績評価方法だ。国際的に通用する基準であることから、90%以上の大学が導入している。各科目の成績に応じて点数(グレード・ポイント)が与えられ、履修指導や奨学金の基準などに活用されている。
教員が学生に与える単位にも、説明責任を求められる。たとえば講義15時間には、予習15時間と復習15時間が不可欠と考え、これらをもって1単位を与えるため、学生はむやみに時間割がいっぱいになるほど授業を選択できない。この上限値を決める仕組みがキャップ制だ。単位の実質化の一つである。オンライン授業で予習をし、教室で復習する「反転授業」も同様である。
つまり今の大学は、ただ単位をもらうには定期試験だけ合格すればよいわけではない。まずは日々の学習ありき、という実質的な考え方をとる。多くの大学で、教室の入り口には学生証をタッチして出席を記録する装置がある。学んだ成果をこまめに確認する小テストも多くなっている。「学ばざる者は卒業かなわず」である。
このように大学は近年、学生の学びに真剣に向き合い、改革を重ねてきた。その中で起きたのが、新型コロナウイルスの感染拡大である。感染予防のためにオンライン授業へ切り替える準備を進めているが、教育の質保証を維持することは限られた予算や設備、時間のなかでは手探り状態だ。週5コマ以上の授業を持っている先生もザラにおり、苦労は計り知れない。
一方で、その効果は高い。いまどきのオンラインシステムは復習のための録画視聴サービスも備わり、多くの学生たちにとっては「いつでも好きな時間に学べる」というメリットもある。もちろんネットワークの接続時間などを把握でき、出席状況も一目瞭然である。双方向授業であるため、学生たちの表情も見えるし、質問や議論もできて教室に近い臨場感もある。小テストも課題レポートも可能だ。教員は、マスクをしていない学生たちの顔をカメラ越しに見られるであろう。整理されていない部屋や化粧をしてない素顔までは、見せてはくれないだろうけど。きっとポストコロナにはオンライン授業がいっきに拡充されるだろう。
では、オンライン授業だけでよいのか。たとえば東京大学は3月31日、学生に向けて「対面での講義は最小限とし、オンライン化を奨励し推進する」との方針を示した。急激な感染者数の増加や、3月25日の東京都知事による外出自粛要請等を踏まえ、見直しを検討したという。その結果として、学生の安全確保を最優先するために4月以降に開講する授業を当面の間はオンライン授業のみとした。
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