覚醒剤、アルコール、ギャンブル、ゲーム……遅れていた対応を学術界が反省
2020年04月16日
アルコールを飲まずにいられないのは、アルコール依存症という病気である。覚醒剤を使用する人たちは、覚醒剤依存症に陥っている。薬物やアルコールなど物質に対して自制できない程にのめり込んでいる状態を「依存(dependence)」と国際的に定義している。一方、ゲームやギャンブルなど特定の行動に対する自制できない程度ののめり込みは「行動嗜癖」と呼んでいる。両者を合わせた概念が「アディクション(addiction)」で、これが世界各地で大きな社会問題となっている。
「嗜癖」という熟語は、大辞林では「あることを特に好きこのんでするくせ」と説明されているが、「行動嗜癖」では単なる「くせ」の域を超えてのめり込む例も少なくない。世界保健機関(WHO)が国際疾病分類の第11回改訂版(ICD-11)で新たにゲーム障害を疾患分類に位置付けたように、「病気」としてとらえる必要が出てきている。
日本では2014年にアルコール健康障害対策基本法が施行され、2018年にはギャンブル等依存症対策基本法が施行された。ところが、このような大きな社会問題に対して、アカデミアの対応は不十分であった。十分な学術的な知見がないままに対策を進めようとしても、無理がある。
学術界でアディクション研究を進めている身としてこの不十分な状況を反省し、これから取り組むべきことを日本学術会議で検討してきた。その成果を4月15日に「アディクション問題克服に向けた学術活動のあり方に関する提言」として公表したので、内容を紹介したい。
主要諸外国では違法薬物の生涯経験率が25-42%であるのに対し、日本では今のところ1~2%程度である。だが、グローバル化が進む今日、日本でも薬物乱用問題が急拡大する可能性があるし、アルコール依存症は多くの悲劇を引き起こしてきた。
また、日本におけるギャンブルなどの行動嗜癖の問題は世界的に見ても小さくない。2016年に特定複合観光施設区域の整備の推進に関する法律(いわゆる、統合型リゾート整備推進法、カジノ法)が成立し、パチンコなどに加えて更なるギャンブル問題の拡大が懸念されている。
アディクション研究は、これまで基礎研究としては脳神経科学を中心として進められてきた。近年では法曹、教育学など他研究領域との関わりも重視されてきている。しかしながらアディクション研究を有機的に連携して行える体制は整っていない。また、我が国においてアディクション症治療薬は研究段階で止まっており、その開発がほとんど進められていない。また、アディクション症は精神疾患の一つであり、治療対象であるという認識が、日本国内において浸透していない。
このような社会全般の無理解はアディクション症患者への差別を生み、アディクション症治療の大きな妨げになっている。さらに、将来のアディクション症対策の主眼は予防に置かれる必要があり、有効な予防教育や再発防止教育のためのプログラム開発を急ぐべきである。
また、行動嗜癖に関してはその対象が拡大し、多様化しているが、
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