歪んだ予算配分やムダな医療のツケが、感染症対策に回っている
2020年04月19日
今回の新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の危機で、日本の厚労省を中心とする医療体制がいかに放漫で脆弱であったかが露見した。この機会に、患者・国民を第一に考える本来の医療体制へと、変革の舵を切るべきである。求められるのは、公正・厳格で強靭な医療への脱皮だ。
再編・統合リストに名を挙げられたのは、自治体が運営する公立病院や日本赤十字病院など、地域医療の中核を担ってきた病院ばかり。そして皮肉にも、これら削減対象とされた病院のベッドが今、新型コロナに感染した軽症者の収容に使われ、命のとりでとなっている。政府が根拠希薄な「ハコモノいじり」などしなくても、適正な医療改革を遂行すれば、公正な医療に努めている病院は生き残れるし、無駄な医療で延命している病院は自然淘汰され消えるはずだ。
いま世界を見ると、 中国と韓国はひとまずウイルス感染拡大の峠を越し、欧州もピークを迎えている感じだ。それに対して米国はまだこれからも悲惨な日々がしばらく続く予感がする。
では日本はどうか……さっぱり先が読めない。感染者数・死者数のデータが信用できないので、予測のしようがないのだ。
外国に比べて日本の感染者数が少なく見えるのは、これまでPCR検査の対象をクラスター関係者に偏向してきたからだ。検査数が抑えられ、数字があてにならない。このことに関しては、「感染者数は少なく装うことができても、死亡者数については隠しようがないのでは」といった意見があるが、そうでもない。年間で10万人以上にのぼる肺炎の死亡患者にほとんどPCR検査をしていないのだから、数多くの新型コロナウイルスの感染者がまぎれ、隠れてしまっている可能性がある。コロナ肺炎であったと診断されると、遺族は顔を見ることができないまま遺骨だけを受け取ることになるのみならず、死後は公的保険が適応されないから高額な自費になるPCR検査を避けたい意向もあるだろう。死者数を増やしたくない政府の思惑と一致することになる。
感染が広がりだした初期には、クラスターを追跡する対策方法は有効だった面もある。しかし、この方策には個人情報保護の壁が立ちはだかることは当初より予測されていたはずである。いまは「封鎖」と「引きこもり」の強化が肝要だ。感染が増加すること自体は仕方のない面があるとしても、大切なのは「医療資源が追いつく範囲のなだらかな増加」にとどめることであり、対策を立案するためには正確なデータが欠かせない。集団免疫が確立するか、特効薬・ワクチンが見つかるまで、しっかりと「時間稼ぎ」をして死亡者を減らすことである。医療崩壊を阻止する目的は「重症者の救命」であり、貴重な医療資源を重症者に集中して充填すべきだ。
我が国の国民医療費は、いまや約46兆円にまで跳ね上がり、国家予算(102兆円)の半分に届こうかという勢いである。新型コロナウイルスによる経済危機は深刻で、政府債務がこれだけ積み上がる中では、今までのような放漫な公的医療費が許されないことは明白である。
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