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物理学の思考法で新型コロナ対策を整理する

基本を理解し、長期戦になるという認識を共有しよう

兵頭俊夫 高エネルギー加速器研究機構ダイヤモンドフェロー(実験物理学)

拡大shutterstock.com
 新型コロナウイルスSARS-CoV-2による感染症COVID-19が猛威をふるっている。

 筆者の専門は物理学で、疫学は素人である。しかし、物理学の思考法(と言っても広い意味のクリティカル・シンキング にすぎない)を使えば、よく知られている基本的情報とさまざまな対策の功罪の関係を整理することができる。そして、そこから現時点で大切なことを導き出せる。それは、国、都道府県、マスコミ、国民がこの戦いは長期戦になるという認識を共有し、医療崩壊と経済崩壊の両方を防ぐという難しい問題に一丸となって立ち向かうことである。

新型コロナウイルスとは

拡大コロナウイルスの形状
 SARS-CoV-2の大きさは直径100ナノメートル(1万分の1ミリメートル)程度である。1本のRNAがカプシドたんぱく質の殻に囲まれており、その外側にエンベロープと呼ばれる脂質の膜がある。エンベロープには数多くのヘマグルチニンエステラーゼとスパイクたんぱく質がついている。スパイクたんぱくは外に突きだした突起で、それが王冠(クラウン、コロナ)に似ているので、コロナウイルスと呼ばれる。

 大半のコロナウイルスは普通の風邪を起こすだけであるが、SARS-CoV-2は感染力も致死率も高い。感染しても症状が出ない人や軽症で終わる人が多いため、そこから感染が広がってしまう。恐るべき新型ウイルスである。

 ただし、エンベロープをもつウイルスは、エンベロープが破壊されると機能しなくなる。アルコールや界面活性剤(石けん、洗剤)はエンベロープを有効に破壊する。このため石けんを使う手洗いが効果的な感染予防の手段となる。

どうやって感染するか

 SARS-CoV-2は感染者の呼吸器内に存在し、声を出したり咳やくしゃみをしたりすると唾液の飛沫に含まれて出て来る。それを顔や手に受けて、最終的に口や鼻などから取り込むと感染する。ただし1個でもウイルスが体内に入ればたちまち感染するわけではない。ある限度の個数(人によって異なり、また体調によっても異なる)を超えなければ、人間が持っている基礎的な免疫力によってウイルスは退治される。

 インフルエンザの場合、ウイルスだけで肺炎になることは少なく、体力(免疫力)が落ちたところで細菌がはびこって肺胞に炎症を起こし重症になる。この細菌性肺炎には抗生物質による治療が有効である。

 SARS-CoV-2は細菌性肺炎のほかに、ウイルス性肺炎を起こす。これは肺胞のまわりの「間質」の炎症で、肺胞の活動を妨げて呼吸困難をきたす。ウイルスには抗生物質が効かないので重症・重篤になりやすい。現在のところ治療法は人工呼吸器や体外式膜型人工肺(ECMO=エクモ)を使用して回復を待つ対症療法しかない。

どうすれば感染を防げるか

 SARS-CoV-2は人から人に感染する。したがって、人に会わなければ、または会っても非感染者であれば感染することはない。しかし無症状の感染者を見分けられないので、感染したくなければ細心の防御策が必要である。

 「三密(密接、密集、密閉)」を避けることが勧められるが、その意味を考えて見よう。ここで、流布している「(密閉、密接、密集)」と異なる順序にしたのは、その方が論理的に整理して考えることができるからである。

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筆者

兵頭俊夫

兵頭俊夫(ひょうどう・としお) 高エネルギー加速器研究機構ダイヤモンドフェロー(実験物理学)

1946年生まれ。東京大学教養学部基礎科学科卒。東京大学大学院理学系研究科物理学専攻修士課程修了.東京大学大学院総合文化研究科・教養学部教授、高エネルギー加速器研究機構物質構造科学研究所特別教授を経て、同ダイヤモンドフェロー.東京大学名誉教授。理学博士。専門は陽電子科学。著書に、『考える力学』『電磁気学』『量子ビーム物質科学』(共著)など。趣味は、フルート、囲碁、合気道、水泳。