すべての学校で今年度の半年延長を、そして一斉に秋入学を
2020年04月20日
現⾼校3年⽣は、これまでにも入試改革の導入やその2本柱の突然の見送りなど、荒波にもまれ続けてきた。さらに今、新型コロナウィルス感染拡⼤という⼤変な試練に直⾯している。今年2⽉末から始まった⼀⻫休校により、本来なら学年末に実施されたはずの重要な進路⾏事も、あるいは春休みに参加するはずだった⼤学や専⾨学校のオープンキャンパスなどもみな中⽌となってしまった。
本稿では、筆者がこれまでに関わってきた⾼校での進路指導の観点から、コロナ休校が及ぼす深刻な影響を報告する。さらに、これは⾼校3年⽣だけの問題ではなく、小学校から大学まで日本の教育全体を根底から揺るがす事態であることから、これを乗り越えるためには長期的な展望にもとづく対策を早期に行っていく必要があると訴える。具体的には、すべての学校について今年度を半年延⻑するとともに、翌年度以降の秋⼊学への移⾏を提案する。
通常であれば、⾼校における就職活動は次のように進む。
各企業は5⽉頃までに翌年度の採⽤計画を⽴て、採⽤に関する具体的な情報が記⼊された求⼈票を7⽉に⾼校へ送る。⽣徒は夏休み中に企業を⾒学した上で、⼊社したい企業を決めて9⽉の採⽤試験を受験する。
ところがコロナ騒動により、多くの企業において次年度の採⽤計画は縮⼩の⽅向で⾒直さざるを得ないと予想される。求⼈件数が激減する中で就職活動をしなくてはならない⽣徒の困難さは察するにあまりある。少ない求人情報の中から選んだ結果、企業とのマッチングがよくなかった場合には早期の離職も危惧される。
⽣徒にも企業にも現在の状況は厳しいのである。企業の体⼒が少しでも回復するまで、⼀連の⽇程を先送りすることが必要ではないだろうか。
休校期間中の授業の代替として、当⾯の課題を⽣徒に渡したり、ビデオ撮りした授業をオンライン配信したりするなどの対応がとられつつある。教師として精いっぱいできることをやりたいとは思う。しかし、これらの対応では本来の授業の代替としては不⼗分である。
授業は、⽣徒と教師あるいは⽣徒同⼠の双⽅向のやり取りの中で、理解が深められていく。⼀通りの学習が済んでいる浪⼈⽣ならまだしも、⾼校3年⽣はまだ学習していない領域も多く、現在は学習の⼟台を築く段階である。その重要な期間が失われていることを看過できない。
⾏事等の中⽌の影響も⼤きい。1学期には体育祭や⽂化祭などの⼤きな⾏事が予定されている学校が多い。また、部活動の⼤会やコンクールなどもこの時期に数多く実施される。3年⽣にとって、⾼校⽣活最後の思い出となる重要なイベントである。かけがえのない⻘春の思い出がなくなるだけではなく、それは進路活動にも⼤きく影響する。
専⾨学校や⼤学・短⼤におけるAO⼊試(総合型選抜)や推薦⼊試(学校推薦型選抜)は、ほとんどが夏から秋にかけて実施される。そこで重視されるのが調査書や⾯接、⼩論⽂などである。学校⽣活で特に⼒を⼊れたことや成果などが調査書に記載され、⾯接や⼩論⽂で⽣徒⾃⾝によって語られる。
ところが、本来もっとも⼒を⼊れて語られるべき3年⽣1学期の活動のほとんどが消えているのである。最上級⽣として、そして⾼校⽣活最後の取り組みとして臨むはずだった⾏事や⼤会こそ、⽣徒たちがもっとも語りたかったことである。部活動や⾏事に⻘春をかけてきた⽣徒たちにとって、それが消えてしまった喪失感はあまりにも⼤き過ぎる。仮にこれらの⼤会や⾏事だけを2学期に先送りしても、その2学期に実施される予定のAO⼊試や推薦⼊試には間に合わない。
緊急事態宣⾔を受けて、多くの地域で図書館も閉館されている。家庭で静かに学習できる環境の⽣徒ばかりではない。幼い弟妹たちと同じ部屋で勉強せざるを得ない⽣徒も多い。
筆者が勤務してきた⾼校でも、⾃宅では勉強できず、放課後遅くまで学校に残って受験勉強に取り組む⽣徒の姿を数多く⾒てきた。そのような⽣徒にとって、学校が休校になり、さらに図書館も閉まっている現在の状況は、勉強するにはあまりにも過酷である。
予備校や学習塾も休業するところが増えており、学習の機会だけでなく学習の場までもが奪われているのである。⾸都圏では私⽴⼤学の定員厳格化などによる⼊試の混乱が続いており、⼤⼿予備校による模試の判定も進路指導の重要な資料となるはずだが、その模試も中⽌される例が出てきている。
ここまで述べてきたことは、⾼校3年⽣の進路指導に観点をしぼったものであるが、同様のことは中学3年⽣や中学受験をする⼩学6年⽣にもあてはまるだろう。さらに⾔うなら、今の状況は受験にかかわらずすべての児童・⽣徒・学⽣にとって⾮常に⼤きな問題である。
緊急事態宣⾔による当⾯の休校期間は5⽉6⽇までであるが、この混乱が1カ⽉で終息するとは思えない。今後、休校期間が小出しに延長されていったら、混乱は深刻さを増すばかりである。
そこで、現時点において、今年度の⼊学・⼊社試験などを含む修了、卒業までのすべての学校活動を半年遅らせると決めることを提案したい。その方が、結果として学校現場に与えるダメージが少なくなるのではないか。さらにそれを単年度で終わらせず、そのまま次年度以降も継続してすべての学校を秋⼊学にするのである。
この場合、いくつものメリットをあげることができる。
まずは、留学など海外とのつながりである。諸外国においては、⽇本のような春⼊学より秋⼊学の⽅が多数である。⽇本でも秋⼊学にすることは、海外との交流をスムーズにするだろう。
⼊試にもメリットがある。秋⼊学になれば⼀般⼊試は春から夏に実施できる。厳冬期の荒天やインフルエンザの流⾏は、入試を実施する側にも試験を受ける側にも⼤きなストレスとなる。秋⼊学はその憂慮を⼤きく減じることができる。
また、4⽉始業にこだわる必要がなくなるので、現在主流の3学期制をあらためて、9⽉〜1⽉を前期、3⽉〜7⽉を後期とする2学期制を採⽤することも可能になる。そうすると、⻑期休業を2⽉の厳冬期と8⽉の酷暑期に置くことができ、特に2⽉のインフルエンザ流⾏期の学校における感染拡⼤を防ぐことも期待できる。さらに、学年があらたまる区切りの休業が夏休みの⻑期間になることから、児童・⽣徒たちに適切な課題等を与えることによって、1年間の学習の不十分なところを補う復習の時間を十分に確保できる。学校や家庭においても、新学年に対する準備に余裕をもつことができる。
当初、7都府県を対象に出された緊急事態宣⾔は、16⽇には全国に拡⼤された。事態は急速に変化しつつあり、休校する地域が今後さらに増えることも予想される。
いつまで休校が続くかは見通せないが、たとえ休校が解除されても当面は学校活動の⼤幅削減が続くだろう。それが半年も続いたら、それは「失われた半年」となり、日々成⻑している⼦供たちにとって取り返すことのできない深刻なダメージとなる。仮に半年の休校が不要な地域があったとしても、その地域の⼦供たちには「付加された半年」として⾒聞を広げたり学習の理解を深めたりする有意義な期間とすることができる。
18日には、大学の総合型選抜(旧AO入試)と学校推薦型選抜(旧推薦入試)について「募集の時期を遅らせる必要がある」との考えを萩生田文科相が示したという報道もあったが、このような「部分的な対策」では混乱は収まらない。「全国一斉の制度の変更」こそが必要ではないだろうか。
10年ほど前、東京⼤学を中⼼に秋⼊学が検討されたことがあったが、賛否両論があり実現にはいたらなかった。そのときの反対意⾒として、⼤学だけが⼊学時期をずらすことによって発⽣するギャップターム(⾼校卒業から⼤学⼊学までの空⽩期間)の問題や、3⽉卒業を前提とした企業の採⽤活動との齟齬、国家試験実施時期との不整合、あるいは⼀部の⼤学だけが実施することによる⼤学間の交流に⽣じる問題などがあげられていた。
しかし、いまは幼稚園や⼩・中学校、⾼等学校、専門学校、⼤学、そして企業にまで深刻な影響が及ぶような状況である。社会システム、学校システムが根底から揺さぶられてしまった今こそ、それら全体を思いきって⾒直すチャンスでもある。⽂部科学省でも、学事暦の多様化とギャップイヤーについて検討していた実績もある(「学事暦の多様化とギャップタームに関する検討会議」報告等)。
感染が拡大している中、緊急に取り組むべき課題は山積している状況だが、それとともに、終息後を見据えた議論も今すぐにでも始めるべきであろう。
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