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「ホーホケキョ」と鳴かないウグイスたち

さえずりは雄同士や雌雄の関係性から決まってくる

米山正寛 朝日新聞記者(科学医療部)

 春となり、野鳥が繁殖する時期を迎えている。新型コロナウイルスの蔓延で外出の自粛が求められている今年はあまり遠出できないが、自宅の近所を散歩する中で「ホーホケキョ」というウグイスの美しいさえずりを耳にした。どうしても滅入りがちになる気分を、心地よくしてくれる響きだった。

拡大新緑の林に現れたウグイス。さえずりを人の言葉に置き換えることを「聞きなし」という。ウグイスでは「法、法華経」だ=杉本康弘撮影

 ところが、さえずりがそれほど上手ではないウグイスたちが、日本の離島にすんでいる。それに気づいたのは、長年にわたって鳥の鳴き声を研究している国立科学博物館動物研究部の濱尾章二・脊椎動物研究グループ長だ。

さえずりは縄ばりの主張と雌へのアピール

 雄の鳥によるさえずりは、縄ばりの主張と雌へのアピールという二つの役割を持つ。そして、その鳥が置かれた生態的あるいは社会的な要因の影響を受けることが知られている。小さな離島の環境は大陸や大きな島とさまざまな面で異なり、鳥たちに影響を与えるはずだ。その結果、小さな島に暮らす鳥たちのさえずりが、同種であっても単純化している傾向は、以前から海外の研究者などによって指摘されていた。

 濱尾さんは伊豆諸島の新島(にいじま)と三宅島、そして南西諸島の喜界島に出かけて、それぞれの島で20~43羽の雄のさえずりを録音し、埼玉県嵐山町で収録した本州のウグイスと比較してみた。その結果、「島のウグイスの方が、声が短くて節回しもシンプルだった」という。つまり「ホーホキョ」とか「ホホケ」とかいう声でさえずっていたわけだ。

 いったいなぜ、離島のウグイスのさえずりは単純なのだろうか。濱尾さんによる説明は、次のようなものだ。

繁殖地で雄同士が激しい競い合い

 本州のウグイスは冬の間は低地で過ごし、春には繁殖のため少し高い山地へと移動する。つまり、国内で小規模な渡りをしている。そしてウグイスは、鳥としては比較的例の少ない一夫多妻の繁殖形態をとる。このため雄は繁殖地に着くと、縄ばりを主張するため盛大に鳴いて他の雄と競い合う。実際に条件の良い場所へ縄ばりを持てる雄は限られるらしい。新潟県で調べたとき、縄ばりを持っていたのは雄の3分の1で、残る3分の2の雄は縄ばりを持たずに動き回っていた。一度押さえた縄ばりを奪われることも多くて、縄ばりの主が数か月で替わることも珍しくないという厳しい世界なのだ。

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筆者

米山正寛

米山正寛(よねやま・まさひろ) 朝日新聞記者(科学医療部)

朝日新聞科学医療部記者。「科学朝日」や「サイアス」の編集部員、公益財団法人森林文化協会事務局長補佐兼「グリーン・パワー」編集長などを務め、2018年4月から再び朝日新聞の科学記者に。ナチュラリストを夢見ながら、とくに自然史科学と農林水産技術に関心を寄せて取材活動を続けている。

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